地域の人と地域の人をつなぐプラットフォームを目指して

2018.9.22 影山裕樹

クリエイターと地域をつなぐワークショップ「GIFU MEME」のフィールドワークにて。恵那市内を歩く

EDIT LOCALがスタートして1年が経ちました。これまで、出版やメディア業界に限らず、広く“まちを編集”している方々のコラム、インタビューを掲載してきました。ゆっくりとしたペースではありますが、これからも引き続き各地のプレイヤーの取り組みを丁寧に取り上げていきたいと思います。

今年の6月には、EDIT LOCAL主催イベントを東京・虎ノ門ヒルズで開催いたしました。このイベントには全国各地からEDIT LOCALの趣旨に賛同する方々にご来場いただきました。2年目に突入するEDIT LOCALは、単に記事を発信するだけではなく、こうした、各地でメディアづくりやまちづくりに携わる人々が互いに交流しあうようなプラットフォームの役割を一層、担っていきたいと考えています。

クリエイターと地域をつなぐワークショップ

各地のプレイヤーをつなぎたい、という思いには理由があります。個人的に今年は新しいプロジェクトの立ち上げラッシュでした。EDIT LOCAL最初のコラムで書いたように、昨年度、京都市の劇場・ロームシアター京都と協働し「CIRCULATION KYOTO」というワークショップを開催したことがきっかけで、岐阜県恵那市で活動する岐阜県移住定住コンシェルジュの園原麻友実さん、兵庫県神戸市で活動する一般社団法人DORの岩本順平さんから声をかけていただき、クリエイターと地域を結ぶワークショップ「GIFU MEME」「KOBE MEME」を今年、スタートさせました。

GIFU MEME
KOBE MEME

MEMEとはちょっと聞き慣れない言葉ですが、『利己的な遺伝子』(紀伊國屋書店)の中で、著者のリチャード・ドーキンスが生物学的な遺伝子(ジーン)に対して、文化の遺伝子(ミーム)というものの存在を語ったのが最初とされています。

ミームとはわかりやすくいうと、人の脳内で模倣される「衣服や食物の様式、儀式・習慣、芸術・建築、技術・工芸」などのことです。僕はこのミームという言葉が好きで、今年発売された『ローカルメディアの仕事術』(学芸出版社)の中でも、地域には、そこに暮らす人々の間で脈々と受け継がれてきた地域らしさ=ミームがあるのではないか、と少しだけ書きました。

目に見えてわかりやすいもの、例えば「お城」だとか、「特産品」だとか、地域外の人から見た“地域らしさ”というものが当然、あると思います。でもそれはマスメディアを通して、観光客でも知っている手垢のついた“地域らしさ”です。

一方、外の目からは見えないもの、その地に暮らさなければ触れる機会のない、ささやかな、しかし長年受け継がれてきた“地域らしさ”──手仕事だったり、住民だけでひっそりと続けられる風習、何気なく交わされるフレーズなど──もあると思います。それを「地域のミーム」と名付けてみよう、と考えたんです。

GIFU MEMEの公開プレゼンテーションを終えて。2年に一回地歌舞伎が開かれる恵那市飯地町の歌舞伎座「五毛座」で9月に開催された

MEMEプロジェクトでは、この「地域のミーム」を掘り起こすところから始まります。まず、一般公募で集まった地域内外のクリエイター(デザイナーや編集者やライター)が、地域の人へのヒアリングやリサーチを通してミームを見つけます。そこに、それぞれのスキルやアイデアを掛け合わせて新しい事業やプロジェクトを生み出そうというワークショップがMEMEプロジェクトです。

誰もが知っている景勝地、自治体が喧伝する観光資源ではなく、その地域の中で受け継がれてきた小さな文化は、あらゆるところで失われていきます。観光客の増加だとか移住者の増加だとか短絡的な数値目標を達成することばかりが求められる中、そういう、地域の“遺伝子”を未来へと引き継ぐことこそが本当は大事なのではないでしょうか。長い目で見てそこに暮らすことの誇りにつながる文化的遺伝子。それは、お年寄りから若者まで、あらゆる世代、属性を持つ人々の間で共有できる価値だと思います。

GIFU MEMEの栃久保エリア担当チームが地元のキーパーソンへのヒアリングの末たどり着いた“ミーム”は、インターネットで検索しても出てこない「じんぼこ」という“講”だった

また、MEMEプロジェクトでは、第三者の立場からワークショップに示唆を与えてもらうために外部のゲストをお呼びしてレクチャーを開催しています。GIFU MEMEでは真鶴出版の川口瞬さんや、石徹白洋品店の平野馨生里さん、空創技研プロペラ代表の櫻井優一さんをお呼びして、地域に根付き事業を継続する秘訣について伺いました。

特に平野さんのお話はMEMEプロジェクトを象徴するものでした。もともと文化人類学を専攻していた平野さんは、石徹白に移住する際、ライフワークとして地域のお年寄りの「聞き書き」を繰り返していました。そこで、古くから石徹白に伝わる野良着の価値に気づき、洋裁を学んでいたご自身のスキルを掛け合わせ、石徹白洋品店を立ち上げたそうです。

余談ですが、”聞き書き”や”ヒアリング”のような、文化人類学的、民俗学的アプローチはこういうワークショップにはてきめんです。口伝や昔話で語られる、史実とフィクションの境目が曖昧なモチーフは、想像力を差し込む余地があります。

石徹白洋品店・平野馨生里さんのレクチャーと直売会を開催

“都市と地方”ではなく“ローカルとローカル”をつなぐ

面白いのは、地域の中だけで受け継がれてきた文化的遺伝子というものは、他の地域の同じような事例と比較検証することでその特殊性が見えてくるということです。山深い地域のお祭りは、海沿いに位置する街のお祭りとは異なるでしょう。その土地の風土、地理的条件、産業、人口などの要素によって、似たような文化でも微妙に異なる。当たり前のことですが、こうした地域と地域の差異というものは、マスメディアから流れてくる一方的な情報を受け止めることに慣れていると見えてきません。

僕たちは高度経済成長以降、一軒家と車を買って、定年までにローンを払い終わって……という、多くの人が同じ人生を歩むことが当たり前だとされる時代に生きてきました。さらに、順調に人口が増加することが約束されていたがために、大衆向けの商売が利益を生むことが明らかだったので、マスメディアはどれも均質で一方的な情報発信に勤しんでいました。そのため、各地の微妙な地域差を見る目が失われ、誰もが都市と地方という構図の中でものごとを判断するようになってしまったように思います。

都市と地方という構造をわかりやすくし、一方的な価値観を押し付けるこうした仕草は、インターネット、SNSが定着した現在においても度々見受けられます。メディアに携わる人間の中にも、こうしたやり方を無意識のうちに踏襲する人が多いのが、悲しいところです。“ローカルメディアの時代”において、こういう豊かな地域ごとの特徴を解像度高く伝え、情報が流通する空間を多様な価値で満たすことが、メディアに関わる者の大事な務めではないでしょうか。

今年9月から、二ケ年計画で始まったKOBE MEMEのキックオフトークショーの様子

全国各地には、それぞれの仕方で、まちづくりやメディアづくりに勤しむ人たちがたくさんいます。そういう人たちは、都会的な仕事の仕方とは違った方法で、地域の人と人をつないでいます。例えば、東京的な感覚だと、仕事にはメールやSNSを使うのが当たり前。そのほうが効率がいいからです。

しかし、地域において重要なコミュニケーションツールはいまだに“電話”と“直接会って話すこと”です。前提条件を共有した者同士で事務的に連絡を取るよりも、分かり合えない人との間でこそ“筋を通す”ことがとにかく重要だと感じます。地域にはお金より“信用”のほうに比重が置かれているのだと思います。

そこにどんな人が暮らしているか、そういう地域内人脈のマッピングが脳内にできているかどうか。これができてない中で、大都市から代理店やらメディア関係者がいきなり入っていき、「課題解決します」と言っても通用しない。メールやSNSのコミュニケーションに慣れ、マスメディア的な「一方的なレッテル貼り」が得意な都会脳の人間は、それぞれの地域の、ある意味泥臭いコミュニケーションを実践しているプレイヤーの仕事からもっと多くのことが学べるはず。

だから、ゆくゆくはMEMEプロジェクトを一緒に立ち上げてくれる人を各地に増やしていきたいと思っています。MEMEプロジェクトはもちろん、地域と外の人をつなぐプロジェクトですが、実は、MEMEプロジェクトの主催者、参加者同士を横でつなぎ、ノウハウを蓄積していきたい、というのが裏テーマ。なにより、各地の実践者と一緒に仕事をして、いつも学ばせてもらっているのは東京的仕事の感覚が染み付いた僕自身だからです。

地方創生は日本だけのテーマじゃない

先日、ありがたいことに2016年に出版した『ローカルメディアのつくりかた』(学芸出版社)の台湾版が出版されました。そこで、台湾版の版元である行人出版社の皆様にお呼びいただいて、出版記念ツアーで台湾を縦断してきました。

台北にある雑誌図書館&コワーキングスペース「Boven圖書館」にて

台湾は来年の2019年が「地方創生元年」と言われていて、各地の自治体も地方創生に力を入れているそう。また、台湾には本当にクオリティが高く、デザイン面のみならずきちんと地域を掘り下げた良質なローカルマガジンがたくさんあります。

日本の若者に比べて政治に対する関心も高い台湾の若者がつくるローカルマガジンや、地域を盛り上げようというコンセプトを持ったスペースを見るにつけ、「明確なミッションを持ったメディアづくりやまちづくり」は台湾のほうがずっと進んでいるのではないか? と感じることができたのは大きな収穫でした。

新竹にあるオルタナティブスペース「新竹見域工作室」

いろんな質問がある中、よく聞かれたのが「ローカルマガジンを継続させる秘訣は?」というものでした。ローカルメディアは、情報を一方的に発信することではなく、発信者と読者がつながり、互いに交流する仕掛けが重要だとこれまで幾度となく語ってきました。

そして、これまでのメディアの方法にとらわれず、工夫して制作費を工面しメディアを継続させている人たちがいっぱいいることを『ローカルメディアのつくりかた』の取材の中で実感しました。台湾の読者のみなさんにとって、台湾版『ローカルメディアのつくりかた』が「クオリティの高い媒体づくり」ではなく、「継続性」を生み出すヒントにつながれば幸いです。

一方、日本はこれから人口がどんどん減り、陰りの時代に突入していくのはほぼ間違いありません。ただ一つだけ言えるのは、その中でも人口減少や高齢化、インフラの老朽化、経済の低迷などあらゆる課題が山積みのローカルこそ“課題先進地域”であるということです。その中でもがきながら、自分なりの方法を編み出しながら、各地で実践し続けるプレイヤーのいる場所は、クリエイティブのフロンティア(最前線)だと言っていいでしょう。

そうした現場で地道に活動を続けてきたプレイヤーの仕事のやり方は、もしかしたら日本のみならず、海外の同じような課題を抱える地域で大いに役立つかもしれません。台湾の地方創生に対する関心度の高さからみても、それは今、一層強く感じています。

ですから、「地域×クリエイティブ」がテーマのMEMEプロジェクトや「まちを編集する人々を伝える、つくる」がコンセプトのEDIT LOCALという媒体が、こうした100の地域の実践者の100通りの方法を共有し、多様な価値を交換しあうプラットフォームになれるよう、これからも務めていきたいと考えています。

マップ

ライタープロフィール

影山裕樹(Yuki Kageyama)

雑誌編集部、出版社勤務後フリーに。著書に『大人が作る秘密基地』(DU BOOKS)、『ローカルメディアのつくりかた』(学芸出版社)。各地の地域プロジェクトにディレクターとして関わる。青山学院女子短期大学非常勤講師、路上観察グループ「新しい骨董」などの活動も。2017年、本づくりからプロジェクトづくりまで幅広く行う千十一編集室をスタート。

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