さいたま発のローカルプロジェクトを生み出す「サーキュレーションさいたま」

2019.11.22 江尻悠介

早稲田大学大学院で建築を学んでいる江尻悠介です。メディアを介した建築デザインの広がりについて研究するとともに、個人的に「アキチテクチャ」というユニットで空き地を使いこなすゲリラ的な活動をおこなっています。
今回は、地域に根ざした公共空間の活用方法への興味からスタッフとして関わっている、「サーキュレーションさいたま」について紹介します。「サーキュレーションさいたま」は、「さいたまらしさ」のあるローカルプロジェクトをつくるワークショップです。「モビリティ」、「公共空間の活用」、「ソーシャル・インクルージョン」という3つのテーマごとにチームに分かれ、さいたま市内のフィールドワークやヒアリングなどを通して、リアリティのあるプロジェクトを構想しています。
このコラムでは、12月15日に行われる公開プレゼンテーションに先立ち、これまでのワークショップの様子を紹介するとともに、ワークショップの持つ射程について考えます。

地域に根ざしたプロジェクトを生み出す

「サーキュレーションさいたま」は、2020年3月から埼玉県さいたま市を中心に開催される「さいたま国際芸術祭2020」の先行プロジェクトとして今年9月にスタートした連続ワークショップです。約半年間のグループワークを通して、さいたまの歴史や長年培われてきた慣習、風習などの目に見えない地域らしさ=MEME(文化的遺伝子)を掘り起こし、それを生かした事業をグループごとにプランニングしてきました。
また、グループワークと並行して、さいたま市に因んで設定された、「モビリティ」、「公共空間の活用」、「ソーシャル・インクルージョン」というそれぞれのテーマに関係のある活動をされている方たちによる公開レクチャーも開催してきました。これらのレクチャーに触発されて、個々のアイデアがより具体的なプランになり、回を追うごとに社会性を帯びてきたと思います。
このように、グループワークとレクチャーの両輪で進んできたワークショップの様子を、テーマごとに振り返ります。

モビリティ

モビリティに関しては、OpenStreet株式会社の工藤智彰さんをお招きし、「HELLO CYCLING」の活動や、電動キックボードなどのマイクロモビリティの持つ可能性についてお聞きしました。「HELLO CYCLING」は、東京を中心に全国で展開しているシェアサイクルのサービスで、自転車自体に通信機器を搭載することでポートの設置コストを削減したり、独自に利用者等のデータ分析を行ったりし、自転車ネットワークという新しいインフラを日本に根付かせようとしています。

このように、シェアサイクルの仕組みを用いることによって、既存のインフラと連携しつつ、比較的容易にユーザーや地域の人々を主体とした交通ネットワークを形成することができると言えます。ここに目をつけた「モビリティ」のチームは、大宮駅周辺などの主要交通網のある地域と比べて、見沼田んぼ周辺の地域に利用可能な交通インフラが不足しているという現状に対して、シェアサイクルを活用した更新方法を検討しています。

公共空間の活用

公共空間の活用に関しては、「アーバンデザインセンター大宮(UDCO)」副センター長の内田奈芳美さんをお招きし、UDCOでの実践や、さいたま市に特徴的な公共空間の魅力などについてお聞きしました。さいたま市・大宮区では都市計画道路の整備事業が進んでおり、その道路予定地にお店を出店する「おおみやストリートテラス」などのイベントが定期的におこなわれています。これは地域の人々が公共空間を自発的かつ継続的に利活用していくためのレッスンとしておこなっているという側面があり、何より公共空間を維持管理する主体の存在が大事だと語られました。また、さいたま市には整備の追いついていない公共空間が多く存在し、その隙間のように点在している空き地が魅力的だと言います。

このようなレクチャーを受けて、「公共空間の活用」のチームは、継続的に運営可能な主体を見つけること(あるいはサポートを求めている既存の事業主を探すこと)を意識し、また隙間のように点在する様々な空き地に合わせて可変的に展開できるような可動のプロダクトを設計するというプランを検討しています。

ソーシャル・インクルージョン

ソーシャル・インクルージョンに関しては、「さいたま市社会福祉事業団」理事長の船戸均さんと、多世代型介護付きシェアハウス「はっぴーの家ろっけん」を主宰する首藤義敬さんにお話していただきました。
船戸さん曰く、さいたま市社会福祉事業団は、困難を抱えるすべての市民を支援するために、既存の施設や制度の手が及ばない「空白」をカバーするような活動をされています。また、首藤さん曰く、コミュニティ運営においてトラブルメイカーを排除することなく、その存在自体を面白がることが大事で、日々さまざまなトラブルにぶつかるけれど「違和感は3つ以上重なるとどーでも良くなる」というお話が印象的でした。

このようなレクチャーに共鳴するように、「ソーシャル・インクルージョン」のチームは、そもそもローカルプロジェクトを起こして色々な人たちを巻き込んでコミュニティを運営していくためにはどうすれば良いのかということに意識的です。また、ピンポイントのターゲットに届くようなプロジェクトをつくるために、あるペルソナ(人物モデル)を設定してそれに関するアンケートをおこない、地域のリアルな声を集めるという方法を取っています。

自発的なコミュニティを醸成するワークショップ

このように「サーキュレーションさいたま」というワークショップは、市民が主体となって自発的にプロジェクトを起こすのをサポートする仕組みだと言えるでしょう。参加者はレクチャーを通して学びつつ、定期的にプレゼンテーションをおこない、メンターに講評をしてもらうことでプランを軌道修正していきます。また、初回のグループワークでは、プロジェクトを発想するための練習として、「MEMEカード」を用いたワークショップをおこないました。

それゆえ、参加者にとって、「サーキュレーションさいたま」は、地方の芸術祭や参加型のアート、建築設計・まちづくりにおけるワークショップなどとは少し異なる試みだと思います。
近年、地方の芸術祭や、アーティストの制作に市民が関わる参加型のアートなどが注目を集めています。これらは、観光資源として外部から人を呼び込むことや、今まで出会うことのなかった人々を出会わせることに寄与していますが、一方で、参加者が主体性を持ち続けることや、会期終了後に市民だけでプロジェクトを継続することは難しいと考えられます。
また、建築設計・まちづくりにおいて、市民の意見を取り込むためにおこなわれるワークショップは、市民の要望を顕在化させるとともに、市民の施設に対する愛着を醸成します。しかし、その施設やプロジェクトの持続可能性やその後の展開、マネジメントの良し悪しなどは、市民のモチベーションに依る部分が大きいと考えられます。

その点、「サーキュレーションさいたま」のようなワークショップでは、参加者自らがプロジェクトを立ち上げるため、当事者意識と責任感を持って、運営していくこととなります。これは、その地域でプロジェクトが継続することにもつながります。また、自発的にプロジェクトに関わる人たちが集まれば、自然とコミュニティがつくられると思います。

有志の個人によってつくられる「私的な公共性」

ところで、「サーキュレーションさいたま」には、大学生から年配の方まで幅広い世代・所属の方たちが参加されています。生まれてからずっと埼玉県に住んでいるという方もいれば、仕事の関係で引っ越して来たという方もいますが、県内に住んでいる方がほとんどです。そのため、ワークショップの参加者とお話していると、地元の人しか知らないような情報を共有しているなど共通項は多いように感じます。しかし、ディスカッションの場面になると様々な方向性の意見が飛び出し、1つのプランにまとめるのが難しいようです。

これに関して、「サーキュレーションさいたま」のキックオフイベントの際に、影山裕樹さんが「今の日本社会では、自分と趣味の合う人や同じ世代で固まってしまうことが多いけれど、都会と違って地域社会では、そこに住む人たちと顔を突き合わせずに生活していくことはできない」と指摘していました。参加者にはそれぞれの所属や性格などの個性があり、異なる意見を持つのは当然のことですが、地域に根ざしたプロジェクトを起こそうとすれば異なる意見を持つ人と関わっていく必要があります。
このワークショップでおこなわれるグループワークは、実社会にも似た、異なる立場の人たちを束ねた共同体です。よって、グループワークにおけるコミュニケーションを通して参加者それぞれの個性やエゴを尊重してプロジェクトを起こすことは、どんな人も包摂するような場所をつくることにつながると思います。このように、メンバーの個性やエゴに端を発した「私的な公共性」を持つコミュニティに、僕は可能性を感じます。

最後に、有志の個人に端を発したコミュニティの萌芽が、さいたま市では既に見られます。「サーキュレーションさいたま」にスタッフとして関わる中で、前回の「さいたまトリエンナーレ2016」にサポーターとして参加していたという方たちとお会いしました。彼らは、芸術祭の会期終了後も集まり続け、クラウドファンディングで資金を集め、サポーター目線で編まれた記録集を出版されたと言います。今回のワークショップでも、有志の個人によってつくられたプロジェクトが地域に根付いて継続していくことに期待したいです。

Information
「サーキュレーションさいたま」公開プレゼンテーション
「さいたま発・ローカルプロジェクトを開発する」
開催日時:2019年12月15日(日)14:00-18:00(13:30開場)
開催場所:旧大宮図書館(さいたま市大宮区高鼻町2-1-1)
定員:100名(入場無料、先着順)
ゲスト:及川卓也(マガジンハウス「コロカル」編集長)、大高健志(さいたま国際芸術祭2020キュレーター)、首藤義敬(株式会社Happy代表取締役)、遠山昇司(さいたま国際芸術祭2020ディレクター)

お申し込みはこちら→https://191215circulationsaitama.peatix.com/view

マップ

ライタープロフィール

江尻悠介(Yusuke Ejiri)

1996年生まれ。早稲田大学大学院建築学専攻在籍。アキチテクチャ共同主宰。
路上の観察と転用、メディアを介した建築デザインの運用を主な関心として活動している。

記事の一覧を見る

関連記事

コラム一覧へ