【イベントレポート】地域×メディアの仕事術

2018.7.19 吉田真緒

写真:喜多村みか

地域でローカルメディアに携わる場合、単に情報を発信するだけでは足りず、地元の人同士がつながる場をつくり、固定化されたコミュニティを撹拌する必要があります。簡単に言うと、地域内でこれまで出会わなかった人と人とをつなぐ役割を担うのがローカルメディアです。そうした意味で、メディアの形は必ずしも冊子やウェブサイトでなくてもよいでしょう。例えば「場所」も、ローカルメディアとして捉えることができます。今回は、そんな広義のローカルメディアの仕事に携わる4名のゲストを招き、地域を編集する方法について議論を繰り広げました。

まちにあるコンテンツを編集する
「HAGI STUDIO」宮崎晃吉さん

宮崎晃吉さん

第一部のテーマは「まちを編集するメディアのかたち – 宿×編集」。まずは地域に根ざして宿を運営する2名のゲストによるプレゼンです。

建築家の宮崎晃吉さんは、東京・谷中で1955年竣工の木造アパートをリノベーションし、「HAGISO」というスペースを運営しています。「最小文化複合施設」をコンセプトに2013年にスタートして以来、HAGISOはまちの人々の集いの場となっていきました。
(宮崎さんの活動の詳細はこちらの記事を参照)

宮崎さんは次に、HAGISO から100mほどの距離にある空き屋を見つけ、これを活用しようと宿泊施設「hanare」をオープンしました。

「HAGISOの運営で、建物の価値はまちによって担保されていることがわかってきました。そこで、もっとまちに対して何かできないかと考えるようになったんです。hanareではまち全体をひとつの宿に見立てました。大浴場が銭湯で、レストランはまちの飲食店。おみやげは商店街で買ってもらい、文化体験はおけいこ教室でしてもらう。寝るところ意外は、まちにある既存のリソースを活用していく」(宮崎さん)

hanareのお客に手渡すオリジナルのマップには裏表があり、表はまち歩き情報、裏は飲み屋情報が載っています。観光地として賑わっている谷中ですが、夕方になると人がいなくなり、飲み屋の出番が少ないという実情をふまえ、飲食店の案内を詳しくしたそうです。

また、近所にいくつもある銭湯を活用できないかと考えました。hanareでは、オリジナルの銭湯チケットと手提げバッグをお客さんに渡しています。こうして、宮崎さんは宿泊以外のあらゆるアクティビティをまちで行い、まちにお金が落ちる仕組みをつくりました。hanareは、まちのコンテンツを再編集する、メディア的な機能を持った宿であると言えるかもしれません。

地域での信頼関係が強みになる
「真鶴出版」川口瞬さん

川口瞬さん

次にマイクを握ったのは、神奈川県と静岡県の間にある半島のまち真鶴で、泊まれる出版社「真鶴出版」を営む川口瞬さんです。
(川口さんの活動の詳細はこちらの記事を参照)

出版社と宿が一緒になったユニークな形態を取ることで、全国の書店で真鶴出版の本を買った人が、宿に泊まりにきてくれるという、相乗効果が生まれているそう。象徴的だったのは、『やさしいひもの』という、真鶴のひもの文化を紹介した小冊子。真鶴にあるひもの屋で使える「ひもの引換え券」を付録としてつけたところ、たくさんの人がひものを買いに真鶴に訪れ、その足で宿に泊まってもらうという循環が生まれました。

その他にも真鶴出版は、自治体から移住促進に関する仕事を受注しています。訪れた人に真鶴を案内するとき、川口さんは、観光客が単なる観光をして終わらないように意識しているといいます。

「ゲストには、真鶴で暮らす“人”を紹介しています。例えばお店を案内するにしても、僕らなら客と店ではなく、“そとから来た人”と“地元の人”としてつなげることができる。そうして『またあの人に会いたい』と思ってもらい、次にゲストが来たときに『おかえり』『ただいま』と言いあえる関係を築いていきたい」(川口さん)

こうした外の人と地元の人との深い関係づくりは、川口さんが普段からまちの人と信頼関係を築けているからこそできることです。

ローカルメディアというと、地域の情報を外に向けて発信することばかり意識されていますが、川口さんは今後、町内新聞など、真鶴の内へ向けた情報発信をつきつめてみたいといいます。

「僕らにとって、冊子を真鶴内で5000部配布することは、全国に5000部販売するのと同じくらいか、それ以上の意味があります」(川口さん)

地域に暮らす人との関係づくりをなによりも大切にする川口さんのあり方は、観光客のニーズを第一に考えるその他のゲストハウスとは一味違うと感じました。「まち」ではなく「人」をメインに据えることで、人間関係をベースにしたリピーターが増えていくのではないかと思います。

hanareと真鶴出版に共通しているのは、観光客を地域に深くコミットさせる仕組みをつくっていること。まちに潜むコンテンツに対する理解を深め、地域との関係づくりができてはじめて、まちと観光客の繋ぎ手=メディアになりうるのだと感じました。

自分ごとが公共性を発揮する
「ヘキレキ舎」小松理虔さん

小松理虔さん

第二部のテーマは、「地域の人間関係を乗りこなすには? —コミュニティのかき混ぜ方」です。メディアづくりそのものよりも、地域に深く根ざしながら、既存のコミュニティをかき混ぜて仕事を生み出すプレイヤーの活動にフォーカスしました。

小松理虔さんは、テレビ局の報道記者、上海での雑誌編集者などを経て、故郷である福島県いわき市小名浜にUターン。2011年に「UDOK.」というオルタナティブスペースを地元の仲間と一緒に立ち上げました。
(小松さんの活動の詳細はこちらの記事を参照)

「UDOK.では、例えばゲーマーの男性が店先でファミコンをしていたりする。子供たちが通りかかると、もう大人気なんですよ。みんな収入を得るための仕事は別にあるから、UDOK.で儲ける必要はない。だから自分の趣味を生かして面白いことをする。家で閉じ込まらずに、UDOK.を通してまちの人と出会う機会がある。こういう場所が地域にあるのは重要だと感じました」(小松さん)

UDOK.の運営をしているうちに、小松さんは自治体から地域おこしのイベントを依頼されるようになりました。もともと地域のために活動したいという意識はありませんでしたが、UDOK.があることで、結果的にまちづくりに関わるようになったのです。これまでいわき市のまちづくりを担っていたのは、地元でも権力が強い青年会議所や商工会でした。彼らにとってみれば、小松さんは異質な存在。でも異質な存在だからこそ、既存のコミュニティにおもねることなく、新しい動きを生み出すことができるといいます。

小松さんの活動は、UDOK.のように、常に自分が関心あるところから始まります。例えば、福島第一原発の目の前で釣りをし、魚の放射性物質の量を測る「うみラボ」という活動もその一つです。

「自分たちの海を取り戻したい。というか、おいしい魚が食べたい。うまい酒が飲みたい。そんな動機から始めた活動だったんです。そしたら、いつの間にか大学や研究機関から注目されて、原発で何かが起きると、どこよりも先に報道番組から取材を受けたりしました。地域でやりたいことをやりたいように突っ走ってやっているとどこかから評価されて、個人的だった活動が公共性を帯びるようになってくるんです」(小松さん)

ローカルメディアが伝える3つの風
「おヘマガ」園原麻友美さん

園原麻友美さん

小松さんが海の人だとすると、次は山の人。岐阜・恵那山麓を愛する人を増やすウェブメディア「おヘマガ」編集長の園原麻友美さんです。「何もない地元がずっと嫌だった」という園原さんは、UターンしてからまちづくりのNPO法人「えなここ」に所属し、手探りでメディアづくりを始めました。現在おヘマガは、地域の文化や暮らし、まち歩き、地元の人へのインタビューなど、まちの情報を幅広く掲載し、月間5万ほどのPVがあります。IターンUターンをした20~30代8名が記者として活動しています。

メディアと並行して園原さんは、年間約100件もの体験イベントづくりに携わってきました。取材をしたり地域の人々と一緒にイベントを企画していくうち、地元の人と関係が深まれば深まるほど、「何もない」と思えた地域には様々に魅力的なコンテンツがあることを実感しました。

「取材やイベントで地域の人と話していると、いろんな相談を受けます。例えばゆず農家のおじさんから、『皮を有効活用したいんだけどどうしたらいい?』とか。そこから仕事が生まれることがだんだん増えてきました。地元ではほとんどの活動がボランティアですが、世間話から始まったプロジェクトがNPOの重要な収入源にもなっていくんです」(園原さん)

地域の多様な人々と交流を続けるうち、園原さんは地域の価値は、3つの“風”で表現できると感じるようになりました。

「これってどの地域でも、暮らしのなかに当たり前にあるものなので、あえて価値を感じている人は少ないと思います。だから、誰かが『いいね』と言い続けないとなくなっていくもの。私たちはまさにこれらの風を『いいね!』と言い続けるべき存在だと気付いたんです」(園原さん)

どの地方に行っても同じチェーン店が並び、全国どこでも似たような風景が広がっている。グローバルな資本が各地に流れ込んでいくなかで、「その地域らしさ」がどんどん失われつつあると園原さんは感じています。だからこそ、当たり前ではあるが失われがちな地域の3つの風を伝え続けたいと意気込みます。

海と山では、地域の風土も人間性も異なりますが、2人とも権力のあるまちの既存のコミュニティにおもねることなく、自らの価値観に基づいて行動し、地域の価値を高めていっているのが伝わってきました。

まちの当事者として、コミュニティをかき混ぜる

ゲストのみなさんは、地域を客観的に見る視点を持ちながら、あくまでそこに住む当事者として場づくりに取り組んでいます。とはいえ、宮崎さんと川口さんはもともと地元の人ではありません。宿という場を通して地域コミュニティとつながるにあたって、難しさはあるのでしょうか。

左から影山さん、川口さん、宮崎さん、奈良さん

「地元の集まりに参加したとき、とある人から『HAGISOみたいのがあるから観光客が増えて困る』と言われたことがあります。ショックだったけど、腹を割って話を続けていたら常連になってくれて。いまじゃその人の息子がhanareのスタッフをしている。しぶとくコミュニケーションを諦めないでいることで、地域内の新しいコミュニティと関係が築けると実感しました」(宮崎さん)

一方、よそ者だからこそ地域内の人間関係に縛られず自由に動けるところもあります。

「真鶴はひもの屋が3店舗あって、それぞれ競合関係にあるわけです。でも、僕らはすべてのひもの屋にまんべんなくゲストを案内しているから、それぞれの店舗どうしでつながりができています。だからこそ『やさしいひもの』でひものチケットをつくりたいと言ったときに、すべての店舗でOKをもらえたんです」(川口さん)

ときに摩擦がありながらも、地域にそれまでなかった新しいつながりをもたらすことが地域を編集するうえで重要だと、各地でメディアづくりに携わる人を取材してきた影山裕樹さんは話します。

「最初は対立関係にあった人どうしが仲良くなったり、もともと利害関係がない人どうしで新たに関係を結びあわせることがとても大事だと感じました。地域で活動していくうえで、そういう努力を怠ってしまうと、すぐに既存のコミュニティで固まってしまい、地域内の経済や文化が停滞していってしまうと思うんです」(影山さん)

地域のなかに入って、コミュニティを解きほぐしているという点では、とくに園原さんの奮闘が話題になりました。というのも、地域は男性社会。女性がひとりで立ち回るのは、簡単ではないはずです。

「若い女性というだけで、最初は相手にされないです。私は新しいことを始めるとき、かならず30~50人くらいの人に会って話をします。権力を持っている商工会議所とか、地元企業の社長の息子に直接話をしにいっても相手にしてもらえない。まずは、そういう人との間に入って説得してくれる人を探すんです。怒られたり、政治に巻き込まれることも多々あります。それでも止めないのは、自分がこの先もここで暮らしていかなきゃいけないという諦めがあるから。だったら少しでも楽しく暮らせるような場所に変えていきたい」(園原さん)

ウェブマガジン「ココロココ」編集長の奈良織恵さんは、同メディアを通して各地の移住ワークショップなどを開催していますが、地元で活躍しているプレイヤーの共通点のようなものを園原さんの言葉にも感じたと言います。

「地域で活動している人自身が楽しそうにしていて、盛り上がっている様子を見ると、自然と外から人が集まったりもしますよね」(奈良さん)

そこに暮らし続けることが前提にあるからこそ、地元を楽しい場所にしたいという気持ちは、小松さんも同じです。

「田舎って、絶望しかないんですよ。僕も仲間と知り合ってUDOK.をつくってみて感じるのは、なんでもない溜まり場が、自分にとってのライフラインなんだなということ。実際、『私、UDOK.がなかったら死んでた』と言う人もいるくらいなんです。UDOK.は、地元に絶望し、生きづらさを抱えている人にとってのセーフティネットでもあるんだなと」(小松さん)

地域の価値を発信するローカルメディアは、どうしても、地域の「いい部分」しか見せないものが多いのが現状です。しかし、小松さんが「絶望」と語るように、地域には負の部分もたくさんあることがわかります。Uターン、Iターンで地方移住を目指す若者が、実際移住してみたら理想と違っていた、ということもよくあります。地域でメディアをつくるということは、地域内の様々なコミュニティと関係をつくり、すでにあるまちのコンテンツを再編集していく「裏方」の仕事が欠かせません。

ローカルメディアにまつわる言説や、若い人のまちづくりを取り上げるメディアからは決して見えてこない、地域内での活動の仕方にフォーカスしたイベントを通して、改めて各地のプレイヤー同士の横のつながりをつくり、議論をかわすことの重要性を感じた4時間でした。

マップ

ライタープロフィール

吉田真緒(Mao Yoshida)

1981年、東京都生まれ。早稲田大学第二文学部表現・芸術系専修卒業。編集制作会社勤務を経て2012年に独立。地域やコミュニティ、ライフスタイルをメインテーマに、多数の媒体で取材、執筆をしている。共著に『東川スタイル』(産学社)がある。

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