「DXの多様性と法則性」を探るーー京都/宮崎/東京のDXトップランナーの取組みから

2022.10.19 安野実礼

月間70万人以上に読まれるデータ・DXに特化したWEBマガジン「データのじかん」の人気特集「Local DX Lab」。「Local DX Lab」では全国47都道府県の各地域のDXやテクノロジー活用のロールモデルや越境者を取材し、地域に根ざし、その土地ならではのDXの在り方を探っています。取材・執筆にはEDIT LOCAL LABORATORYのメンバーも。updataDX22の本セッションでは京都/宮崎/東京とエリアだけではなく、自治体と民間、そして卸業・農業・行政と立場、ビジネス形態に至るまで全てが異なる3名を招聘して、多様なDXの取り組み、そして成功までのプロセスを伺いました。

京都/宮崎/東京のDXトップランナーのご紹介

株式会社ハマヤ 代表取締役COO兼CHRO 町田 大樹 氏

1985年生まれ、大阪府出身。2008年大学在学中にインポートブランド輸入会社を起業。製造業界で産業機器・システム販売をおこなう専門商社に営業として従事。現代表取締役CEO有川氏とともに株式会社ハマヤから経営立て直しの依頼を受け経営参画。同社では社内の組織編成、業務フロー改善、EC事業体制構築、新規事業立ち上げなど幅広い責務を担う。

◯ハマヤ町田氏取材記事
わずか2年で業務時間5,760時間削減/利益率27%増『ゼロ』からDXを実現した京都老舗企業のDXの『本質』

テラスマイル株式会社 代表取締役 生駒 祐一 氏

(株)シーイーシーにてソリューション営業と、新規事業を担当。2010年にグロービス経営大学院にてMBAを取得。2011年に関連会社である農業法人の運営と、農業ITを担当。2014年にテラスマイル(株)を創業。2021年にJAグループとオイシックス等が運営するFuture Food Fund、関西電力グループからの出資を受けた。2022年 農業情報学会 学会賞受賞。2022年 農林水産省 農業支援サービス「データ分析」事例企業。内閣府 地方創生society5.0有識者委員を始め、総務省・農水省・農研機構の委員などを務めている。

○テラスマイル 生駒氏取材記事
『稼げない』未来からの脱却。10年農業経営『データ』と向き合うことで見えてきた、10年後の『農業のあるべき姿』とは

東京都 デジタルサービス局戦略部 デジタルシフト推進担当課長 清水 直哉 氏

2003年3月慶應義塾大学卒。ISPにてネットワークやWeb・スマホアプリ等のサービス企画・運用等を担当、大手SIerのスマートシティ部門で事業企画に従事。2017年入都、オープンデータや新型コロナウイルス対策サイト、デジタルツイン実現プロジェクトなど、都のデジタルシフトの推進に携わる。

○東京都 清水氏取材記事
東京都のデジタルツイン実現プロジェクトリーダーが語る、デジタルを社会実装するための大原則とファーストステップ

(モデレーター)ウイングアーク1st株式会社 データのじかん編集長 兼 メディア企画室室長 野島 光太郎 氏

広告代理店にて高級宝飾ブランド/腕時計メーカー/カルチャー雑誌などのデザイン・アートディレクション・マーケティングを担当。その後、一部上場企業/外資系IT企業での事業開発を経て2015年ウイングアーク1st入社。

DX・変革の3ヶ月 or 1年のスタートダッシュのススメ

1つ目のセッションでは「パネリストの方々に聞く- DX・変革のスタートダッシュのススメ」と題し、パネリストの方々の経験を踏まえ、DX・変革のスタートダッシュとして初めの3ヶ月、及び1年間をどのように進めていくのか伺いました。

人の気持ちを変えるデジタル活用(テラスイル 生駒氏)

農業分野でデジタルをどのように活用するのか、人材育成の観点からお話しいたします。
これまでの日本の農業界は、小規模農業者に支えられていましたが、ここ10年で大規模農業と呼ばれる層が全体の7〜8割を占めるようになり、日本農業のインフラを支える時代に変化しました。
さらに、「緑の食糧システム戦略」と呼ばれる持続可能性がある農業のあり方が今年度から進められる中で、数値の可視化など、デジタルの必要性が急激に高まっています。

このような状況下において、デジタル活用のために初めの3ヶ月、1年間で必要な設定は以下が挙げられます。

【3ヶ月】
● 実績分析
● 要因分析
● 統計技術等
● データを活用した来期計画
【1年間】
● 新規就農者・若手農業者を指導する普及指導員や農業営農指導員など行政担当者がデジタルを活用できるようにする

「背中を見て覚える」という勘と経験を用いた指導方法では10年程度時間がかかってしまい、かつその指導法だと、1年に一作しかない作物に対しては10回しか指導の機会がない上に、外部環境の影響が大きいため、再現性が非常に乏しい指導内容になってしまいます。そのため、指導内容の説得力が欠如してしまいます。それらの点をデータで伝えることにより、「分析や指導方法だけではなく、気持ちまで変えること」がDXの大きな変化の一つであると考えます。

一方で、これまでは作るものと得るもの(場所)との間にある情報の不平等性が課題でした。
価格競争、人件費の上昇、資材・燃料などの価格高騰など、各社が生産性を高めることで営業利益を稼ぐようにしていたものの、それも限界を迎えつつあり、生産者側の所得が減る原因となっています。この情報の不平等性を是正していく必要があるのです。

私たちはデータの活用(DX)によって農業者がしっかり所得を確保できる状況を可視化し、食のサプライチェーンを最適化しようと試みています。
農業者自身が何でどの程度稼げばいいのか可視化された世界を目指していくことが重要と考えています。(テラスイル 生駒氏)

データの可視化と情報の共有・発疹でデジタルツイン実現の一歩を(東京都 清水氏)

ただいま東京都では都民のクオリティ・オブ・ライフ、及び、都政のクオリティ・オブ・サービスの向上を目指してデジタルツイン実現プロジェクトを進めています。
デジタルツインとは現実世界の双子を仮想空間に作り活用しようという考え方で、現実世界のさまざまなデータを集約、可視化、分析、インサイトすることで現実世界の業務をより良くするためのサイクルを回す取り組みです。
現在は、例えば、浸水想定区域図や避難場所、河川の監視カメラ、3D年モデルなど水に関する防災関連のデータを各局から集約している段階で、庁内から活用方法に関する意見を出しています。
2030年までには、リアルタイムデータを用いた意思決定、政策立案、日常業務への活用などができる完全なデジタルツイン実現を目指しています。

DXに向けた初めの一歩として、いきなりデータの活用方法はイメージしづらいため、まずは「保有しているデータを可視化すること」から始めましょう。
都庁内では、それぞれの部門、各局が保有しているデータを可視化していき、可視化したデータに関して活用方法の意見を収集したりしました。そうすることで、各局で興味をしっかり持ってもらうことも同時に進めていく必要があります。我々の場合だと、建物の3Dデータがあったため、2Dよりも興味を持ってもらいやすかった印象があります。

また、積極的に関係各所へ情報共有・発信をしていくことも重要です。
従来の業務に携わっている人からすると、デジタル情報は手に入れにくい状況です。そこで、他自治体や民間業者の取り組み、新しいニュースなどの情報を積極的に共有することで、双方の情報レベルを合わせ、DXに対して熱い想いも醸成しつつ、仲間を増やしていく地道な取り組みが最初は重要なのです。
こちらからの発信だけではなく、相手の業務理解も同時に進めるとより効果的です。(東京都 清水氏)

DXを成功させた3つの成果と3つの理由(ハマヤ 町田氏)

弊社では「企業がデジタルテクノロジーを利用して事業の業績や対象範囲を根底から変化させる」ことを基軸とし、注力しています。
今回は「手芸屋のハマヤ」が出した3つの成果とその理由についてお話しいたします。

1つ目の成果は「年間5760時間の削減」です。
元々アナログで行っていた業務や毎日行っていたタスクなどを全て書き起こし、その中でデータ化できる部分をデータ化し、業務時間を削減しました。

2つ目の成果は「21%の利益率の向上」です。
卸業は利益率が見込みづらい業種なのですが、弊社としてはそこに付加価値を与えることで利益率を改善しました。1つ目の成果として時間を削減できたため、付加価値をつける取り組みもできました。

3つ目の成果は「100回以上の新しいことへの挑戦」です。
現在メインとして行っているIT事業部を立ち上げるまでに、100個以上のプロジェクトやコミュニティを立ち上げ、トライ&エラーを繰り返してきました。

これらの成果を成し得た理由として3つ挙げられるのですが、1つ目の理由が「DXチームが結束して覚悟を決めたこと」です。
他社のDX支援の場面でも話をしている部分にはなるのですが、DXを進める上で「時間がない」「お金がない」「不満が出る」という3つの壁にぶつかります。
弊社では、それらの壁に対してDX専属のチームを作り「絶対に遂行して社内を良くするぞ!」という決意を固めたことが成功のポイントだと感じています。

2つ目の理由は「社内コミュニケーションを怠らなかったこと」です。
1つ目と関連性が高いのですが、コンサルティングのフレームワークにもあるように「as is」と「to be」のギャップを埋めることが、DXの推進でも重要だと考えています。
チームの結束を高めることに加えて、しっかりと「なぜやるのか」「何をするとどう良くなるのか」という点を、抽象的な部分と具体的な部分を織り交ぜながらしっかりと現場に伝えることを徹底していました。

そして3つ目の理由が重要なファクターなのですが、「開発、ツール導入がゴールにならなかったこと」です。
弊社のCTOが現場に「既存で良いツールがあればそれを使用すればいい」ということと「開発はゴールではなくあくまでツールである」という2つのポイントを強く浸透させたことが非常に大きいです。
優先順位を決め、最小限のパワーで効果が出るものから行うことを基軸としたことが、弊社でDXが上手くいった理由だと考えています。(ハマヤ 町田氏)

デジタルテクノロジーの組織・社会実装について

前半のセッションではDXのスタートダッシュという切り口でお話を伺いましたが、ここでは技術的な側面ではなく、企業であれば組織、自治体であれば市民や社会に対してデジタルテクノロジーを実装、浸透させるために何が必要か、というテーマに触れていきます。

必要に迫られた部分から始める

まずは清水氏に、人口が多く多様性が求められる都政でどのようにDXを実装したのか、何を意識・工夫したのか伺いました。

「必要に迫られること」も大事かと思います。コロナの影響が都庁内でも大きく、情報発信の場ではオープンソースでWebサイトを作成したという点が、都民にとっても有用に働き、他の自治体にも波及しました。
また、保健所とのやりとりが未だにFAXで行われているという点が明るみに出て、社会問題として認識され、業務効率化のためにもデジタル化が必要だという意識も高まったように思います。

全てを一気に進めることはできないため、まずは必要に迫られている部分から着手するというのに加え、都庁では今、興味を持って前向きに取り組みたい、と相談を受ける機会も増え、想いを持った人達をサポートしながらDXを一緒に進めています。(清水氏)

DXの先に実現できる夢を語る

続いて、町田氏に老舗企業への支援の場面で、文化の違いなどの壁をどのように越えるのか伺いました。

基本的には弊社内で行ったことと同じで「as is」と「to be」を非常に意識しており、特に私個人が「to be」の夢に対して意識がある傾向がありました。
KPIや数値目標の設定はもちろん行ってはいましたが、弊社のDX推進チームはクリエイティブ思考の人が多く、プロジェクトを進める中で「これはロボットに任せてもいい仕事だ」「これはクリエイティブな人間にしかできない仕事だ」などの話を意識して行っていました。(町田氏)

型にはめつつ、ペルソナに合わせた意思決定をする

生駒氏にはDXで気持ちを変えるという観点から、どのような取り組みを行ったのか具体的なエピソードを伺いました。

クリエイティブな部分を大切にしつつ、一方で「型にはめること」で安心感を与えることも重要だと、これまでの経験から感じています。

「農業者」として一括りにすると型を見い出しにくいのですが、農業者の中にも子育て世代の農業者、雇用を抱える農業者、生き方を追求する農業者など、それぞれの属性で思考が大きく変わります。
また、モチベーション維持の方法として、過去の自分を超えたい人、他者と比較する人、計画を達成したい人、その他、と大きく4つほどパターンもあります。
そうした方々に対して、データの蓄積から実装・活用という話なったときに「難しくてわからない」という方が多いため、一定のフレームワークに納めつつ、それぞれの人の属性やタイプなどを見て最終的には守破離でクリエイティブに変えていこうとしています。(生駒氏)

最後に、これからDXを推進していく人へ

仲間を作ろう!(ハマヤ 町田 氏)

DXを推進しようと動いている人は孤軍奮闘しているような人が多いように見受けられます。
そうした状況は大変だと思いますが、まずは仲間を作ることが重要だと今回のお二人の話を聞いてより強く感じました。(町田 氏)

外部とも情報共有を(東京都 清水 氏)

町田さんの話と共通する部分がありますが、DX担当者は想いが強い人が一人で進めている、というシーンも多いようなので、自分と同じようにDX推進を頑張っている人たちとゆるくでも良いので情報共有など繋がりを持てれば良いなと思います。(清水 氏)

使命感を持って取り組む(テラスマイル 生駒 氏)

やはり環境変化を進める者は孤独になりがちですが、未来を変える、日本の未来を支えていくという使命感を持って取り組むことが重要かなと思いました。(生駒 氏)

まとめ

3者とも関わっておられる分野や立場が違っていても、本質的な部分で重視しているポイントは共通している部分が多いように感じました。
特に「(データの)可視化」と「仲間をつくる」という2点は、DX導入やデジタル活用の部分だけではなく、何か新しいことを始める上で非常に重要だと学ばせていただきました。

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ライタープロフィール

安野実礼(Minori Yasuno)

1995年、愛媛県生まれ。大阪芸術大学 芸術学部へ進学後、大阪市内のベンチャー企業にて新規事業立ち上げからクリエイティブディレクションに従事。現在はグラフィックデザイン、ライティング、カメラ撮影を3本柱としたコンテンツクリエイターとして活動中。

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