移住サラリーマン、はじめての本づくりに挑む

『迷路のまちの小さな美術館の挑戦』ができるまで

2022.10.6 須鼻美緒

佐藤秀司さん

2020年から動きはじめた小豆島・迷路のまちの「妖怪美術館」本の出版プロジェクト。2022年10月、2年かけてようやく書籍『迷路のまちの小さな美術館の挑戦』が完成しました。著者である佐藤秀司さんに、本ができるまでの苦労や紆余曲折について、編集担当の須鼻美緒が話を聞きました。

※本テキストは、クラウドファンディング小豆島・迷路のまちの「妖怪美術館」の取り組みを通して、地域活性に悩む多くの人たちにエールを送る本をつくりたい!特典冊子の一部を加筆修正のうえ掲載しています。

移住サラリーマンの奮闘

ーーまずは2年間、本当におつかれさまでした。日々会社員として働きながら書籍をつくるというのは並大抵のことではなかったと思います。改めて、自己紹介をお願いします。

福島県出身。東京から小豆島へ2013年に移住したサラリーマンです。小豆島ヘルシーランドというオリーブの6次産業を担う会社が取り組んでいる地域振興事業を任されています。事業内容は、アートを主軸とした文化活動によってまちを活性化させようという取り組みです。その舞台は「迷路のまち」と呼ばれるかつては島の中心的な商店街だったところ。妖怪をテーマとした一風変わった美術館をつくったことで、迷路のまちに多くの観光客が来訪するようになりました。今後は外国人、特に欧米の人たちに、妖怪を通して日本文化を感じられるような施設として、地域とともに発展させていきたいと思っています。

小豆島の風景

ーーそもそも、なぜ本をつくろうと思ったのですか?

2013年に移住してからの約7年間、地域に入り込んで取り組んだ事業は一定の成果を得ることができました。そこで、これまでのことを一度振り返ってみることで、今後取り組むべきことを改めて考えたい、と思うようになりました。これまでのことをテキストにまとめたりしていましたが、せっかくならこれまでの取り組みや、今後やっていきたいことを情報発信すれば、迷路のまちのことや妖怪美術館のことをもっと広く知ってもらえるのではないか、と考えました。そこで思い切って「本をつくろう」と思ったんです。

妖怪美術館

EDIT LOCAL LABORATORYがきっかけに

ーー自費出版ではなく、クラウドファンディングを選ばれたのはどうしてですか?

最初は自費出版で、と考えていました。でも知名度のない私が自費出版をしても、自己満足で終わってしまうのは明白です。そんな時に、参加したばかりのオンライン・コミュニティ「EDIT LOCAL LABOLATORY」で、クラウドファンディングで本を出版をするプロジェクトについて教えてもらったんです。
クラウドファンディングをすれば、出版することをあらかじめ多くの人に知ってもらえるので、ひとりでも多くの人にこの本が届けられるのではないかと思いました。本の出版を手がける千十一編集室の影山さんや編集者の須鼻さんをはじめ、応援してくれるコミュニティの仲間がいたことも後押しとなりました。

ーー2021年2月にクラウドファンディングが目標金額を越えて、133人の支援者から1,384,555円が集まりました。 その時のお気持ちは?

まずは目標金額を越えられたことにホッとしました。さらに、こんなに多くの人たちに応援してもらえたことがとてもうれしかったです。お金をいただける、ということはもちろんそうですが、むしろ、自分がやりたいと思っていることに賛同してもらえたことが大きな喜びでした。でも、それと同時に、期待に応えられるような本を書き上げなければならない、というプレッシャーがすぐにのしかかってきました。

ーー完成まで、当初の予定を大幅に越えて約2年かかりましたが、その間の苦労や印象的だったこと、心がけたことがあれば教えてください。

出版の予定が大幅に遅れてしまったことについては、皆さんに謝罪しなければなりません。私の不徳の致すところです。執筆について振り返ってみると、まず最初に影山さんから「10万字書いてください」と言われて、途方にくれました。
特に最初の書き出しには苦労しました。自分のことを紹介するために、中学校の頃の思い出とか、移住する前のエピソードなどを含めて3万文字くらい書いたのですが、「まったくおもしろくない。読むのがつらい」と言われてしまって、ショックでした。結果的に全部ボツです。この時点で、もともと考えていた本の構想はすべて崩れ去りました。

千本ノックを乗り越えて

ーー編集者としても、あの時は心苦しかったです……。

それでも第一章は何とか次につながりそうな内容にして、第二章へと進んだのですが、頭から読み返すたびに第一章も手直しを繰り返したので、原稿は遅々として進みませんでした。追い打ちをかけるようにコロナ禍で事業内容を変更したり、お店を閉店したりしたので、それに合わせて本の内容も変えなければならない事態となりました。第三章はコロナ禍を私たちがどのように乗り越えていったか、という内容なのですが、その内容も時間が経って状況が変化するにつれて変えていくこととなり、そのぶん大量のボツ原稿が生まれてしまいました。結果的に書いた文章は20万~30万字分になったと思います。
あと、言い訳になってしまいますが、執筆中に奥さんの妊娠、そして第一子出産からのはじめての子育てなどが重なったことで、より自分の時間を確保する大切さ、大変さを思い知らされました。

ーー今回はじめての本づくりを通して、ご自身の成長や変化はありましたか?

影山さんや須鼻さんの「千本ノック」で相当鍛えられました(笑)。それは冗談ですが、たくさんの訂正や指摘をいただいたおかげで、「自分が書きたいこと」と「人が読みたいこと」は違う、ということが明確にわかりました。

ーーそれは具体的にどういうことでしょうか?

読者は自分が小豆島を観光しているような気分だったり、迷路のまちの住人になったような気分になれるような、より臨場感があって楽しい内容を求めているはずです。ですが、私ははじめ、営業や企画系の仕事で企画書や提案書を書いていたこともあり、その延長線上で文章を書きました。「とにかく論理的に筋さえ通っていればよい」という独りよがりな文章です。
ですが、そんなものは(仕事でもない限り)誰も最後まで読んではくれません。仮にどんなに素晴らしい内容だったとしても、最後まで読んでもらえなければ意味がありません。人が読みたくなる文章とは、多くの気づきや役立つ情報、適度な問いかけなど、「最後まで読んでもらえる仕掛け」が随所に散りばめられているということがわかりました。
これを教えていただいたおかげで、自分の中にあった「文章を書くこと」の自信はきれいさっぱりなくなって、他人の文章をより謙虚な目で読むようになりました。執筆を通じて「書く力」が伸びたというよりも、書くことを経験したことで他の人の文章を「読む力」や、よりよい文章がどのようなものかを「探る力」がついてきたような気がします。

ーー 本が完成してみての今の気持ちを教えてください。

まだ何とも言えません。とりあえず厳しい批評にさらされるんじゃないか、と戦々恐々としています。ただ、厳しい批評をもらうということは、本をしっかりと読んでもらえたということなので、それはそれでうれしいと思えるんじゃないかと考えたりしています。
迷路のまちや、アートプロジェクトの成り立ちと、現在に至るまでの経緯などが、活字としてまとめられたことについては、充実感を覚えています。

妖怪美術館のメンバーたち

小さな美術館から日本じゅうの人に届けたい想い

ーーこの本をどんな人に読んで欲しいですか?

「まえがき」にも書きましたが、地域を盛り上げようとがんばっている人たちや、地方への移住を考えている人たち、とにかく新しいことにチャレンジしていきたい、と思っている人たちに読んでもらうことをイメージしながら書きました。でも読んでもらえるならだれでも構いません!(笑)
本を読み直して思うのは、内容はともかく「読後感がよい」ということです。ここだけは少し自信があります。なので、本を読んで気持ちよくなりたいという人、読書で気軽にカタルシスを感じたいという人はぜひ、最後まで読んでもらえたらうれしいです。

ーー最後に、これから小豆島や迷路のまち、妖怪美術館がどんな場所になることを期待していますか?

まずは、プロジェクトの起ち上げから現在に至るまで、小豆島や迷路のまちのために尽力された人たちに感謝と敬意をお伝えしたいと思います。私は途中から参加させていただいた人間なので、これまでの土台をしっかりと踏まえながら、さらに素晴らしいところになるように努力していこうと思っています。
感謝と敬意を忘れず努力を続けていくことができれば、きっと世界中から、老若男女問わずたくさんの人が訪れる場所になっていくと信じています。そうした人たちに何度も訪れてもらい、たくさんの笑顔であふれる場所になってほしいですね。

<書籍情報>

『迷路のまちの小さな美術館の挑戦』
佐藤秀司 著
https://sen-to-ichi.com/publication/elbooks02/

入館者数3.6 倍
売上11 倍
地域への観光客5 倍!

SNS のいいね!を釣る妖怪・中二病妖怪……一風変わった現代の妖怪を集める妖怪美術館。東京から小豆島に移住したサラリーマンが、“アートによるまちおこし”に挑んだ7年間の奮闘記。小豆島の観光スポット紹介&「妖怪美術館」割引券付き!

ウェブマガジン「EDIT LOCAL」による、地域と文化について考えるシリーズ「EDIT LOCAL BOOKS」第二弾。

全国の書店、または以下のネット書店よりご購入ください

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EDIT LOCAL BOOKS
『迷路のまちの小さな美術館の挑戦』

佐藤秀司著
企画:EDIT LOCAL LABORATORY
発行元:千十一編集室
定価:1600 円(+税)  
https://sen-to-ichi.com/publication/elbooks02/

【妖怪美術館】
住所 〒761-4106 香川県小豆郡土庄町甲398
TEL 0879-62-0221
メール mail@meipam.net
URL http://meipam.net
定休日 水曜日(祝日は無休)

プロフィール

佐藤秀司

福島県生まれ。2000年福島大学行政社会学部卒業。東京でテレビ局、インターネットメディアの仕事を経て、2013年小豆島に移住。迷路のまち・アートプロジェクトMeiPAM(メイパム)に参画し2017年代表に就任。「妖怪美術館」を基点とした地域再生事業に取り組み、観光施設の企画立案や演出、楽曲制作、歌や振付なども行う。小豆島ヘルシーランド株式会社地域事業創造部マネージャー。小豆島・迷路のまち妖怪プロジェクト実行委員長。小豆島とのしょう観光協会理事。小豆島ナイトツーリズム協会会長。オリーブオイルソムリエ。

ライタープロフィール

須鼻美緒(Mio Subana)

株式会社モーイ代表取締役。上智大学文学部新聞学科を卒業後、株式会社ビー・エヌ・エヌでデザインやカルチャー分野の書籍を編集。2009年、東京・恵比寿のフラワーショップkusakanmuriを立ち上げ、ブランディングや商品企画、広報などを担当。2015年香川県に移住し、株式会社瀬戸内人にて約5年間、雑誌『せとうちスタイル』の編集を担当。主な担当書籍に『ピクトさんの本』(ビー・エヌ・エヌ)がある。

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