まちという立体的なフィールドの”編集”をテーマとするEDIT LOCALが、各地の実践者をつなぎ、相互に交流・活動することのできるラボ(EDIT LOCAL LABORATORY)を立ち上げるということで、早々に「アートプロジェクトラボ」を提案させていただき、活動をはじめています。
このコラムではこのラボを立ち上げた背景や業界の状況、私の問題意識やラボで目指していることについてお伝えしたいと思います。
各地で行われているアートプロジェクト
ここで言う「アートプロジェクト」とは、熊倉純子(東京芸術大学 音楽環境創造科 教授)がネットTAMなどで述べているように、美術館・ギャラリーのような専門的な施設というよりはまちなかや生活空間のなかで行われていたり、アーティストだけでなく様々な関係者・参加者と共に取り組む共創的な表現活動などをイメージしています。
大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ(新潟、2000〜)、瀬戸内国際芸術祭(香川・岡山、2010〜)、六本木アートナイト(東京、2009〜)など多数の作品・プロジェクトを含む、地域の名前を冠して自治体等が主催する芸術祭だけでもほぼ全国の都道府県にありますし、同種の中小規模のもの、教育・福祉施設を舞台とするもの、アーティストが地域を限定せずに様々な場所で展開しているものなども挙げていくと、国内だけでも毎年常に数100のアートプロジェクトが展開されているはずです。
EDIT LOCALで紹介されている、各地での様々な取り組みと同様、個人や民間の団体が担い手となっているものもありますが、文化芸術振興基本法の制定、一部改正(2001、2017)、内閣府「地域創生」総合戦略(2015〜2019)などを受けて、自治体が主導したり、公的資金を用いて行われているものが近年急激に増えています。東京オリンピック・パラリンピック競技大会(2013決定)と共に展開される「文化プログラム」も多く行われる2020年がそのピークを迎えると言われています。
芸術・文化だけでなく、社会的観点からも価値を考えていく場が必要
私は現代美術と呼ばれる分野を専門として仕事をしてきましたが、この10年ほどは、特に各地で行われている芸術祭やアートプロジェクトの企画から広報、記録、編集などその推進に関わること、中間支援、調査研究や担い手を志す人向けの学びの場づくりなどを手がけてきました。
自らが関わるものを通してはもちろん、多い時期は毎週のように異なる地域へ足を運びながら取材・体験してきた現場を通して感じている課題がいくつもあります。
そのひとつが 、その多様な価値を考え、共有していく場の少なさ。美術館・ギャラリー等の専門施設で見ることができるアートは、ある意味でそこで評価される価値基準が決まってきます。まちなかなど公共的な場で行われたり、様々な人が関わるという事は、プロジェクトが自ずと多様な人に向けた表現となり、その価値の捉え方も様々になるということ。私はある時から、アートプロジェクトを取材・体験する時に同業者の間での評判を参照するのには飽き足らず、地域で暮らす人々がどのように関わり、評価しているのかや、偶然体験を共にした一般参加者が抱く感想などにも目を向けるようになりました。
このラボではあえて「芸術・文化」をはずした社会的観点からも考えていきたいです。どのような価値を重視するのかというのは立場によって異なると思いますが、複数の観点から考えていくことで、それぞれの価値を深めることや、クロスオーバーする部分の本質を見極められるはずです。
ものごとには様々な捉え方があるという、アートが本質的に持つ特徴をふまえても、自らの視点や同質的なコミュニティのなかだけで価値を固定化してしまうのではなく、異なる回路を開いていきたい。そのような指針の元に、ラボ会員と共にスタディツアーや勉強会を開催していきます。例えば「半島ラボ」と協働して、牡鹿半島でこの夏に行われるリボーンアート・フェスティバル(宮城、2017〜)を見にいく企画なんかも面白いのではないかと思います。
多様化する価値を伝え・残していくメディアをつくる
業界の関係者の間では、そもそも数が増えすぎて体験や批評等が困難になっている点、モノとしてかたちに残らない、コト寄りになりがちなアートプロジェクトの記録・アーカイブ自体が難しくなっている点がよく課題に挙げられています。
実際、私が近年仕事で関わる仕事の多くが、アートプロジェクト等の主催者が行う広報や記録に関わるディレクション・メディア制作等になってきています。複雑化する価値から、主催者が提示したい部分を抽出し、他者に伝わるかたちに”編集”をかけていく作業になります。
しかしそれは「芸術・文化」に興味がある人、関わっている人向けの取り組みに偏り、先に述べた社会的観点から見た価値が抜けがちです。
EDIT LOCALで取り組みたいのは、より社会的志向を持つ”編集”によるメディアづくりです。ラボの存在自体がまずそうでありたいし、コンセプトに共感して参加いただいた方々と共に、EDIT LOCAL上で発表していく記事も制作していきたい。そしてやはり、商業出版など本のかたちにして、ピークを迎えつつあるこの10年の動きを客観的にまとめていく活動につなげていきたいと思います。
地域を越えて、担い手がつながる
アートプロジェクトの価値を考えていく場づくり、メディアをつくる活動は、オンラインを活用しながら、ラボ会員とゆかりのある各地でも取り組んでいきます。
例えばある地域のアートプロジェクトについての取材記事を制作するにあたって、そもそもどのような地域なのかの勉強会、取材活動をしたことがない人向けの実践を交えた講座なども交えながら、プロジェクトの舞台を見て回ったり、関係者に話を聞く機会を設け、そこから感じた価値についての意見交換をした上で、コンテンツ制作をすすめていきます。
このアプローチは、かつて東京・墨田区で行われていた「墨東まち見世」という私が携わっていたアートプロジェクトの記録集の制作手法を参考にしています。これを進めるにあたっては、公開トークと編集部員募集を行いながら「墨東まち見世編集塾」というプロジェクトのかたちにして取り組みました。結果、手間こそかかりましたが、プロの編集者やライターだけでつくるよりも、様々な情報や価値観にふれながら、多様な視点で言葉を紡ぐことができ、「墨東まち見世」に関わる人が皆でつくった実感もしっかりと残る記録集になったと自負しています。
EDIT LOCALでは、その一部はオンラインも活用しながら、現地へのアクセスが難しいラボ会員にも共有していきます。中には各地でアートプロジェクトの担い手として活動する方もいるでしょう。広報や記録など”編集”に関わることはもちろん、様々な運営上の課題をテーマにした勉強会なども開催していきます。
最終的に出来上がるメディア・コンテンツ自体はもちろん、そのプロセスからも多様な価値が生まれる活動になるはず。EDIT LOCAL影山の著作の言葉をかりると、まさに「ローカルメディアの本当の価値は、できあがったものそのものよりも、つくるプロセスがどれほど豊かであったか、ということに尽きる」(『ローカルメディアのつくりかた』学芸出版社、2016)ということです。
直接・間接的に携わるであろう、様々な地域の担い手にとって、価値の再認識や、課題解決のきっかけとして機能するラボを目指していきます。
他者との対話からアートプロジェクトの価値を見い出す
ラボに参画したポイントをまとめると、”編集”や”地域”を大きなテーマとするEDIT LOCAL自体への共感はもちろん、主に以下の3点に集約されます。
・複数のラボが共存し、自身が持つ専門性とは異なる背景を持つ方々と相互交流ができること
・各ラボの運営団体やリーダーの既存の活動が相乗りするようなかたちをとり、コミュニティを囲い込むのではなく、つないでいく志向をもっていること
・会員が拠点としている地域を問わず、オンラインでの活動も重視していること
他者との対話からアートプロジェクトの価値を見い出すことを心がけながら、以下のような活動に取り組んでいきます。
・facebookグループ上でのイベント情報交換等
・アートプロジェクトへ足を運ぶスタディツアー
・アートプロジェクトの魅力を伝える実践講座や10年本の企画
・アートプロジェクトの企画・運営に関わる勉強会(オンライン活用)
・月例のリサーチ・活動報告(オンライン活用)
アートプロジェクトに漠然と興味を持つ程度の方から企画・運営の担い手まで、広くご参加をお待ちしています!
○EDIT LOCAL LABORATORYとは?
https://edit-local.jp/labo/
○EDIT LOCAL LABORATORY会員登録はこちらから
https://peatix.com/group/6889532
○アートプロジェクトラボ単体への登録申請はこちらから
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※アートプロジェクトラボ単体への登録申請自体は無料(承認制)で受け付け、講座やツアーなどリアルな活動への参加や記録の提供についてはEDIT LOCAL LABORATORYの年会費メンバーを対象とする形を取っています。