社会×アートの未来を展望する書籍『危機の時代を生き延びるアートプロジェクト』コロナ禍の制作と出版報告

2022.5.2 橋本誠

2021年12月。地域と文化について考えるシリーズ「EDIT LOCAL BOOKS」第一弾として、千十一編集室より『危機の時代を生き延びるアートプロジェクト』を出版しました。

千十一編集室の紹介ページ

クラウドファンディング「日本各地で行われているアートプロジェクトの10年の動きを伝える」を通して一部の資金調達・プロセス公開・参加型で制作した書籍です。

MOTION GALLERYのクラウドファンディングページ

全国各地の事例取材を予定しながら、想定外のコロナ禍となった本書の制作プロセスと完成した内容、出版記念イベント(5/17岡山、5/18高松でも開催予定!)の様子などをお伝えします。

参加型の編集会議等を通した内容の検討(〜2020年2月)

制作資金の一部を募るためのクラウドファンディング(クラファン)は2019年7月1日〜9月30日にかけて実施。クラファン期間中にも、内容の検討を兼ねたゲストトークや公開編集会議、リサーチ的な取材活動やオンラインでのアンケート募集なども行いました。その様子のレポートは一部アーカイブしています。

アップデート記事一覧

書籍収録事例「ホハル」を立ち上げた滝沢達史さんをゲストとしたゲストトーク

クラファン終了後は、リターン「編集に参加する!」対象者30名にも自由に参加いただけるオンライン編集会議を全5回行い、橋本・影山が中心となり2020年2月中にはおおよその編集方針や構成、取り上げる事例を固めました。

(編集方針)
・アートプロジェクトの近年の動きを振り返りながら、文化芸術的価値だけではなく、社会的価値が伝わる切り口で構成する。
・切り口として想定しているキーワードは「社会包摂」「地域経済」「災害復興」「メディア」など。
・取材対象とするプロジェクトを絞り、それぞれ複数の立場の関係者への取材を元に、多様な書き手による記事を制作する。
・業界関係者による鼎談などを元にした記事も制作し、俯瞰した視点を得られるようにする。
・収録した事例の位置づけなども理解しやすい年表などの資料も収録する。

オンラインを活用した編集会議の様子

オンラインを中心としたコロナ禍での取材・収録(〜2020年12月)

しかし、いよいよ取材に入るというタイミングで新型コロナウイルス感染症の影響が大きくなります。しばらくは様子をみながらの取材を考えていましたが、事態の長期化を見込んでオンラインでの取材を積極的に行っていく方針としました。これは元々、編著を担当した橋本・影山が体験ないし取材経験のある事例の「再取材」を中心に考えていたことに加え、一緒に記事を取材・執筆する担当者についても、それぞれの事例や開催地域に縁がある方へ依頼することで可能となりました。

(事例取材・執筆担当例)
・大阪「ココルーム」については、京都在住でその活動についても知るはがみちこさんのみが現地へうかがい、編集者はオンラインで立ち合い。
・栃木「おじさんの顔が空に浮かぶ日」についてはオンライン取材を実施。当時のプロジェクトを体験している中嶋希美さんが担当。
・大分「BEPPU PROJECT」「CREATIVE PLATFORMOITA」については初回取材のみ編集担当が同行、以降は現地在住でそれぞれの事例についても知る橋爪亜衣子さんを中心にオンラインを活用しながら実施。

大阪「ココルーム」取材の様子

事例紹介記事は、プロジェクトの中心人物だけではなく参加者やサポーターなど複数の方へお話を聞いた上で、発言や具体的なエピソードを通して当時の雰囲気が出来るだけ伝わるように構成すること。また、客観的な情報もおさえながら執筆者の立場や視点も伝えることを心がけました。

芹沢高志さん(P3 art and envaironment 代表)と若林朋子さん(プロジェクト・コーディネーター/プランナー)に協力いただいた座談会では、アートプロジェクトの定義や歴史的な変化、様々な社会領域との接続、本質的に持っている性格、評価の方法など話題が多岐に渡り追加収録も実施。計4時間のエッセンスをまとめた濃密な内容となりました。

座談会収録の様子

その他、橋本・影山がそれぞれ担当したコラムでは、それぞれの体験や知見を元に取材では取り上げきれなかった事例の紹介を交えつつ、アートプロジェクトが地域やコミュニティにもたらす価値や、それを伝えるメディアのあり方などについての考えをお伝えする内容としました。

タイトルの検討とデザイン、年表の制作(〜2021年10月)

取材・収録が完了した頃から記事の制作と校正作業に並行して、タイトルの検討とデザイン、年表の制作を進めました。

タイトルについては、取り上げる事例の中に東日本大震災や西日本豪雨での事例が含まれていたということもありますが、コロナ禍が続いていることも受けて「危機の時代」というキーワードを加えました。表紙の写真については、アートプロジェクトらしい美しいものも候補に検討していましたが、タイトルとの相乗効果を考えて最終的にはあえて作品ではなく、西日本豪雨の現場を「ホハル」の滝沢達史さんが撮影した風景を使用させていただきました。デザインは様々なアートプロジェクトの制作物も手がけるLABORATORIESの加藤賢策+守谷めぐみさんによるものです。

資料として書籍の冒頭へ加えた年表については、どこまでの時期と範囲を対象にするのかの検討に時間を要しました。最終的には、取り上げるアートプロジェクトがカバーできる2000年からに絞り、それぞれのアイコン的なイメージや継続性・関連性を表現することに特化しました。作画は、リターン「編集に参加する!」メンバーの井上果林さんに担当いただきました。

情報メールや小冊子セットなど、特徴的なリターンの提供

制作と並行して、クラファンのリターン提供も進めました。先にふれた「編集に参加する!」や書籍へのクレジット掲載と配本のほかに特徴的だったものをご紹介します。

「アートプロジェクトのおすすめ情報メール」
「アートプロジェクトを楽しむ!」コース(5000円)以上の方に、クラファン期間中の2019年8月からほぼ毎月、各地で行われているアートプロジェクトの情報や、橋本によるコラムをお届けさせていただきました。コロナの影響でイベント情報が少なくなった状況を受けて、2020年4月以降はオンラインイベントの情報も盛り込むなどしつつ配信ペースを見直し、2020年11月までに計11号を配信させていただきました。リターン紹介を兼ねた準備号については、MOTION GALLERYのサイトでご覧いただけます。
【リターン紹介】アートプロジェクトを楽しむ!:おすすめ情報メール

「アートプロジェクトに関わる小冊子セット」
「アートプロジェクトを小冊子でも楽しむ!」コース(10000円)の方へ、2020年5月に発送させていただきました。各地のアートプロジェクトが独自に発行する冊子や読み応えのあるニュースレター、オリジナルグッズなどを集めて組み合わせ、お1人様8〜10点ずつお送りさせていただきました。
【活動報告】リターン「小冊子セット」を発送いたしました

「リサーチ・取材に同行」
「リサーチ・取材に同行する!」コース(20000円)の方へ、クラファン期間中から随時提供しました。当初は、書籍への収録を前提とした現地取材への同行(上限:3件)を主に想定していましたが、コロナの影響で現地取材そのものが少なくなり、また人数を絞る対応が必要になりました。そのためオンラインでのご案内が多くなってしまいました。このリターンでは、一緒にアートプロジェクトの現場を体験した上で、参加いただいた方がどのように感じられたのかを意見交換すること自体を重要視していましたので、書籍完成後の各地訪問や勉強会の機会なども利用しながら、リターンの提供を代替的に継続しています。

刊行記念イベント①「地域アート」を公共化する

2021年12月の刊行後、書籍の著者・編著者によるオンライントークのほか、ゲストをお招きして刊行記念イベントを開催しました。

まずは、藤田直哉さん(SF・文芸評論家)をお招きした、本屋B&Bさんでのイベント。ハイブリッド開催を予定していましたが、残念ながら配信のみでの実施となりました。

藤田さんは、『地域アート』(2016)の出版に携わった経緯などについて、まず社会課題から離れすぎてしまっていたゼロ年代のオタク文化に対する危機感があり、アートプロジェクトがそれとは異なり、現実の世界や政治とダイレクトにつながっている点から興味を持ったと説明。その価値について以下のように語りました。

「都市的・リベラル的な価値に寄りがちな現代アートというジャンルが、あえて地方のヤンキー的・村社会的なところにコミットして、両者のハイブリッドを生み出している。古くからある地方の価値も引き継いでアップデートしている文化は日本社会を変える可能性を持っている」(藤田さん)

また、書籍の中で映画監督でもある濱口竜介や遠山昇司による活動が紹介されていることから、集団創作による表現のあり方と可能性、そして書籍の制作手法についても言及。

「ドクメンタのディレクターにアートコレクティブであるルアンルパが選ばれたり、集団の力が美術でも最先端になってきているのではないか。自ら企画・編集した震災文芸誌『ららほら』でも、我のたった書き手だけを集めるのではなく、当事者に寄り添いながら寄稿してもらうという、アートプロジェクトのようなつくり方をしてみようと実験した。そうなると出版社だけに頼らずクラウドファンディングをしてみたり、自分でもお金を出すというやり方になる。だから今回のアートプロジェクト本の作り方もそうだなと分かるし、正しいと思う」(藤田さん)

SF・文芸評論という専門性を持ちながらもアートプロジェクトに興味を持つにいたった背景、書籍のクラファン時に応援コメントを寄せいていただいた意図などが明らかになったトークとなりました。

刊行記念イベント②危機の時代を生き延びるプロジェクトとデザイン

続いて、京都岡崎 蔦屋書店での開催。山崎亮さん(studio-L代表)をお招きしました。

山崎さんは、あらかじめ書籍をじっくり読み込み、気になる部分を丁寧にスライドにまとめて来ていただいていました。例えばP.182「おじさんの顔が空に浮かぶ日」に関する、現代アートチーム目のメンバー・南川憲二さんの発言「アートが特定の地域に関わるとき、そこに迎合する必要はない」をめぐるトピックについて。

「①アーティスト自ら意味を生み出す。②参加者がそれぞれの意味を生み出す。①+②がアートプロジェクト。自ら意味を生み出しつつ、みんなの意味を集め、実現へ向け協力していく。そうでないと多数性(=同じ人間だから気持ちを想像できるという信頼/違う人間だから対話する必要があると思える、多様性の種のようなもの)の潜在能力が発揮されない。そのためには、各々が意味を暴露する時間が必要であり、プロセスが重要」(山崎さん)

だとコメントくださいました。

確かに、書籍で取り上げているココルームやクリエイティブサポートレッツのように、アーティストというよりも法人格・集団としての性格が強い事例についても、そのやり方を丁寧にひもといていくと、ある個人の意識が発端となりながら、それが「暴露」されつつ多くの人のものになっていると見てとることができます。「そのバランス感覚が面白い」と山崎さん。

また、最後にはタイトルに含まれる「危機の時代」に関しても熱のあるコメントをいただきました。

「アートプロジェクトは危機の時こそその力が見えやすく、日常の中ではまだまだ弱い。もっと地域の日常に入ってきたら、アーティストのように自分をさらけ出してもいいんだって気づいたり、感化される人が増えていき、地域の寛容性を深めることになるのではないでしょうか」(山崎さん)

様々な地域の活動を見られてきた山崎さんの言葉には、非常に説得力がありました。

制作を振り返ってー御礼とこれから

ご支援いただきました皆様、主体的に取り組んでいただいた執筆者の皆様、取材に協力いただきました皆様には改めてお礼を申し上げます。誠にありがとうございました。

そして本の最後にも書きましたが、直接・間接的に背中を押していただいたのは、やはりアートプロジェクトの現場の豊かな風景それ自体だったこともお伝えしておきたいと思います。取り上げることができたのはそのごくわずか一部ですが、これまでに出会って来た様々な人々の手でそれが生み出されている奇跡、その営み自体の美しさを伝えたい。そのような気持ちにさせてくれた全ての現場にも感謝を伝えたいと思います。

イベントや報告を重ねながら進めたクラファンから、多くの方々とコミュニケーションを取りながらの制作。そして出版、このコラムでの報告と準備時期からあっという間にまる3年かかってしまいました。

制作は全てが思い通りというわけにはいきませんでしたが、刊行記念トークで藤田さんがお話しされていたように、この本そのものが「アートプロジェクトのようなつくり方」だったと思います。出来上がったものも大事ですが、プロセスの様々な場面で私たちにもたくさんの発見がありましたし、関わっていただいた方にとって少しでも意味のあるものになっていたら幸いです。

SETOUCHI ART BOOK FAIRでも販売したZINE「よりみち芸術祭」

そしてアウトプットに関してもこの本が全てではなく、リターンのおまけをかねて制作したZINEの続編も制作できそうな気がしていますし、今後も予定している刊行記念トークのようなイベントを通して伝えられることもまだまだあります。EDIT LOCAL LABORATORY「アートプロジェクトラボ」としてのリサーチや勉強会は続きますし、その成果も随時noteなどで公開していきたいと考えていますので、ご注目ください。

※EDIT LOCAL LABORATORY については、こちらをご覧ください
https://edit-local.jp/labo/

(5月に行われる刊行記念イベント予定)

・松村圭一郎さんと考える「地域における人々の営みー祭りとしてのアートプロジェクト」
日時:2022年5月17日(火)19:30〜21:00 ※19:00開場
会場:奉還町4丁目ラウンジ・カド(岡山市北区奉還町4-7-22)
https://www.lounge-kado.jp
参加費:1000円+1ドリンク

本の中では紹介することのできなかった豊かな「地域における人々の営み」の価値について、編著者の橋本が文化人類学者の松村圭一郎さんと一緒に考えます。
ゲスト:松村圭一郎(文化人類学者/岡山大学准教授)
ホスト:橋本誠
https://elbooks-okayama.peatix.com/

・橋本誠×藤井佳之トーク「いま見ておきたい、瀬戸内界隈と10年の動き」
日時:2022年5月18日(水)19:30〜21:00
会場:本屋ルヌガンガ(香川県高松市亀井町11-13)
https://www.lunuganga-books.com
参加費:1,000円(1ドリンク付)

本の中では紹介することのできなかった事例やいま見ておきたい動きについて、2人が語り合います。
出演:橋本誠、藤井佳之(なタ書 店主)
https://t.co/Or6SgikvN1

マップ

ライタープロフィール

橋本誠(Makoto Hashimoto)

アートプロデューサー。東京文化発信プロジェクト室(現・アーツカウンシル東京)を経て、一般社団法人ノマドプロダクションを設立(2014)。NPO法人アーツセンターあきた プログラム・ディレクターとして秋田市文化創造館の立ち上げに携わる(2020〜2021)。編著書に『危機の時代を生き延びるアートプロジェクト』(千十一編集室)。多様化する芸術文化活動・アートプロジェクトに関わる企画制作や、広報・記録・人材育成に関わるプログラム、調査・コンサルティングなどを手がけているhttp://nomadpro.jp

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