「地域の編集2020-21 コロナ禍におけるローカルメディア」レポート

2021.7.29 EDIT LOCAL LABORATORY事務局

2021年3月28日、ニュースパーク(日本新聞博物館)にて「地域の編集2020-2021 コロナ禍におけるローカルメディア」と題したトークイベントがオンラインとリアル会場で行われました。

2019年10月~12月に同じくニュースパーク(日本新聞博物館)で行われた企画展「地域の編集――ローカルメディアのコミュニケーションデザイン」の閉幕後まもなく新型コロナウイルス感染症が拡大し、人々の社会生活は大きく変わりました。人と人とのコミュニケーションが制限されるといった状況下で、ローカルメディアや新聞社はどのように対応し、地域のコミュニケーションについて考えてきたのでしょうか。

今回、こちらのイベントに参加したEDIT LOCAL LABORATORYインターンのトミオカクミコと、ニュースパークで企画展・イベントを担当した阿部圭介がリポートをお届けします!

企画展「地域の編集――ローカルメディアのコミュニケーションデザイン」

まずはコーディネーターの影山裕樹さん(合同会社千十一編集室代表、『ローカルメディアのつくりかた』著者。企画展「地域の編集」企画協力者)が、2019年の企画展を振り返りました。

企画展は、全国各地で「ローカルメディア」と呼ばれる洗練された紙メディアをつくり、人と地域のつながりを生み出している人たちが若者を中心に増えていることに着目しました。全国各地からローカルメディアを100点以上、実際に手に取れる形で展示するとともに、地域の課題解決など新聞社のコミュニティーに関わる様々な取り組みも紹介。会期中は、シンポジウムや横浜を舞台に3つのテーマからローカルメディアを考えるワークショップを実施しました。トミオカもワークショップに参加、野毛を舞台に「野毛みくじ」というローカルメディアをチームで企画・提案しました。

最終日に行ったシンポジウムでは、ローカルメディアと新聞社の方が一堂に会して、地域のコミュニケーションのあり方を討議しました。その時、ニュースパークの尾高泉館長が「年に1回は、ローカルメディアと地方紙の取り組みを共有できるようなイベントを開催しましょう」と話し、このイベントにつながりました。

「地域の編集――ローカルメディアのコミュニケーションデザイン」(2019年)photo:Ryosuke Kikuchi
同展に合わせて開催されたワークショップ「YOKOHAMA MEME」(2019年12月)

その上で、影山さんは今回のイベントの趣旨を次のように説明しました。

「2020年に入り、新型コロナウイルス感染症の拡大により、私たちの社会生活は一変しました。特に緊急事態宣言下では外出自粛が要請され、街を歩き、人と会い、肩を寄せ合うというコミュニケーションの原点ともいえる活動が制約されました。その状況下、ローカルメディアや新聞社はどのように対応し、地域のコミュニケーションを支えてきたのでしょうか。19年の企画展では紹介できなかった新聞社とローカルメディアの連携事例も交えつつ、2020~21年の「地域の編集」を考えるという、今回のトークイベントに至りました」(影山さん)

ローカルメディア、地方紙はコロナ禍の今

前半は、各地のゲストがコロナ後のローカルメディア運営の事例を発表しました。

まず初めに、北海道からオンラインで参加したのが、ウェブメディア「オホーツク島」運営者、株式会社トーチ代表のさのかずやさん。

「ローカルメディアは、地域の活動を発信するためのものから、地域の活動体そのものとしてのメディアへ変わってきている」(さのさん)

さのさん自身がNHK札幌放送局とタッグを組んだ番組「ローカルフレンズ出会い旅」や、札幌市などが主催するクリエーティブコンベンション「NoMaps」内トークイベントなどの企画運営の経験から、情報を発信するだけでなく、そこで出会った人的資源を結びあわせ、ともに活動を産んでいくことがいかに大事かを話しました。

「NoMaps」実行委員も務めるさのかずやさんが企画したトークイベント。地域の内外のキープレイヤーをつないで発信し、発信それ自体を地域の次のアクションにつなげていくために、メディアやイベントを企画している

次に発表したのは、横浜市政策局共創推進課担当課長の関口昌幸さん。民・官・学が連携した新型コロナウイルス感染症に対応するプラットフォーム「おたがいハマ」を担当しています。おたがいハマは、対話やファシリテーションのできる、共創型の民間主体のプラットフォームです。おたがいハマを作った背景として、関口さんはこう語ります。

「これまで自治体情報の発信は、定期的に記者発表をすることで、マスメディアを通して市民に届けられるケースが多かったのですが、現在では新聞やテレビなど日常的にマスメディアへアクセスする市民層が急速に減ってきているのと、世代的にみても高齢世代に偏っていて、マスメディアといえど市民に広く届かないようになってきています。またこれまで横浜市は、市民に身近な地域での情報共有を図るため、『広報よこはま』を町内会や自治会組織を通じて配布するなどしてきましたが、高齢化や世帯の単身化が急速に進む中で、行政の広報や住民間のコミュニケーションをこれらの地域組織に依存することには限界がきています」(関口さん)

また若年世代を中心にSNSで情報を得る市民層が多くなってきており、自治体の広報・広聴においてSNSの活用が欠かせなくなったといいます。

そこで、若者や子どもが動画などで発信したり声をあげたりできるようなウェブのプラットフォームであるおたがいハマを作ったそうです。掲げるテーマは「ネット時代のサードプレイス」です。「公金はいっさい投じずに、官民学連携でこのプラットフォームをいち早く立ち上げることができました」と関口さんは話しました。

NPO法人森ノオト代表の北原まどかさんは、横浜のウェブメディア「森ノオト」を運営しています。ローカルメディア運営を通して、ライター育成や市民団体の広報支援、マルシェや大豆づくり、子育てツアーなどのまちづくりやコミュニティー活動を行い、「足元15分圏内のまちを耕していく」ことを大切にしているそうです。

森ノオトの最大の特徴は「市民ライターが情報発信をしている」こと。北原さんは森ノオトの活動について、こう話します。

「コロナ禍でもコミュニティー内での対話から、生活を楽しむための記事やテイクアウト情報などが立ち上がりました。市民が地域の課題や魅力を知り、正しい情報を可視化して発信することで、まちの解像度が上がり、地域活動の担い手も増えていきます」(北原さん)

そのため、メディアリテラシーを持った市民ライターを育成する講座に力を入れているそうです。

NPO法人森ノオトの事務所は、住宅街の中の一軒家である。小さなマルシェや共同購入、リサイクルファブリックマーケット「めぐる布市」など、場やモノを一つのメディアととらえた活動も展開している

京都新聞社メディア局デジタルビジネスセンターの龍太郎さんは、ローカルメディア「ハンケイ500m」とコラボするウェブサイト「ハンケイ京都新聞」を立ち上げ、運営しています。

「ハンケイ京都新聞」は、「京都らしさとは何だろうか?」をテーマに、観光ではない地域・生活者としての京都を発信するメディア。京都市バスのバス停から半径500m圏内を徹底リサーチし、フリーマガジンとして発行されている「ハンケイ500m」と、地元のマスメディアである「京都新聞」がタッグを組みました。

マスメディア離れが進行し、紙の新聞で情報を届けられる層が限定されている。自分たちは何のためにメディアをやっているのか」(龍さん)

という原点に返って考えたそうです。昨年は、新型コロナウイルスの影響で神輿渡御と山鉾巡行が中止された祇園祭を裏方として支える内部の人たちに共同でインタビューを行いました。新聞記者として接しているだけでは知り得なかった祇園祭の裏側について深く聞き、発信できたそうです。ローカルマスメディアの強みと、狭い地域を深掘りするローカルメディアのいいところを掛け合わせることで相乗効果が生まれています。

イベント後半では、北原さんがいう「足元15分圏内」と「ハンケイ500m」が、不思議と同じくらいの距離感だと、オンラインメディア「マガジン航」編集発行人の仲俣暁生さんが指摘しました。このことは、地方紙とはいっても狭い範囲の地域の発信をすることは難しく、そこに既存のローカルメディアと地方紙がコラボするメリットがあるのではないか、という議論につながります。

「ハンケイ京都新聞」ではフリーマガジンと新聞、双方の強みを生かして、足で稼いだ情報をwebやSNSで発信している

福間慎一さん(西日本新聞社編集局クロスメディア報道部デスク・記者兼経営企画局 新メディア戦略室)は、「クローズアップ現代+」などでも取り上げられ有名になった、読者の依頼に応じるオンデマンド調査報道「あなたの特命取材班」の事務局を担当しています。「あな特」には、29の地方紙や放送局が参加しています。

市民からLINEなどを通して集まる「困った」の声に答え、その実態を深く探る。そしてそれを発信することで、問題提起し、社会を良くしていく。その先に、「読者に必要とされる新聞」になるという目的意識を持っているそうです。

仕事の悩みを吐露してくれた郵便局員の書き込みがきっかけで郵政の内部問題を摘発した「かんぽ不正販売」問題などのスクープは瞬く間に広がり社会問題にまで発展。高校生の学校でのお悩み投稿がきっかけで「ブラック校則」問題が可視化され話題になったことも。

こうした全国的なスクープを量産できるのはなぜでしょうか。そこには、「読者から離れてしまったのは、新聞の側なのではないか」という問題意識がありました。

「従来のマスメディアは、読者が『知るべき』ことやメディアが『知らせたい』ことの発信に注力していましたが、『あな特』は読者の知りたいことや悩みごとが取材の起点になっている」(福間さん)

と福間さんは考えています。SNS利用が増えているとはいえ、「SNSではなかなか言えないこともたくさんある」こともまたわかったそうです。「新聞社には従来、人々が言えないことを発信する受け皿として役割がありました。あな特はその受け皿になっている」とのこと。

あな特に寄せられた声をもとにした記事の例(2021年5月20日付「西日本新聞」)

ローカルメディアはコロナ禍を超えて

後半では、前半の事例報告に関する質疑応答とともに、横浜会場に集まった影山裕樹さん、北原まどかさん、仲俣暁生さん、神奈川新聞社の小野たまみさんを交え、コロナ禍のローカルメディア、地方紙の今後と可能性について意見交換しました。

神奈川新聞社経営戦略本部部長で、ウェブメディア「カナロコ」の立ち上げなどに携わった小野さんはこう語ります。

「メディアはそもそもコミュニティーを繋げる役割を持っています。ニュースは話の『まくら』なのだと思います。その『まくら』から読者とどのようなコミュニケーションを取っていくべきか、神奈川新聞社としても市民の声に耳を傾けながら新たな対話の形を模索したいと思っています。一方で、ジャーナリズムの重要性も増していると感じており、その価値を保つためにどうすればいいのかも考えていきたいです」(小野さん)

それに対して仲俣さんは、福間さんの「あな特」の取り組みも受けつつ、こう話します。

「マスメディアがもつ『編集』の力は、いわば方向性を強く打ち出す『強い編集』。それに対してこれからは、読者や市民といった受け手の力を緩やかにすくい上げる『弱い編集』も重要ではないか。もちろんジャーナリズムの役割は引き続き重要だし、マスメディアはローカルメディアで伝えられないものを担うべき。第二次大戦中の統制下に定着した一県一紙の体制には功罪あるが、日本の地方紙は地域でのプレゼンスもいまだに高く、世界的に見ても財産だと思う。『ハンケイ500m』のようなボトムアップ型のメディアと結びつけることで、新聞はまだまだ地域における存在意義を保っていける」(仲俣さん)

仲俣さんの「弱い編集」の議論を受けて影山さんはこう指摘します。

「ローカルマスメディアとしての地方紙も、ニュースの価値を『べき論』でとらえ、ジャーナリズムという高尚な命題に囚われていては生き残っていけない。いかに市民と交渉し必要とされるメディアになるかが問われている。メディア人材は、単に言語作成能力と情報発信能力を高めるだけではなく、地域内コミュニティーに対するファシリテーション力を高めることも大事。地域で『書ける』人はいても、それらの人材を見いだし、発信ニーズのある自治体や企業とマッチングさせなければ埋もれてしまう。ファシリテーション力を鍛えていくことこそが、これからの時代の『編集』の役割ではないか」(影山さん)

市民ライター養成講座で実際に「書ける」人材を増やしていく活動をしている北原さんからはこんなコメントも。

「市民の発信する情報が説得力を持つためにも、ジャーナリズムから学べることは多い。ローカルメディアの作り手である私たちも、地域に根差すマスメディアである地方紙と協力できることはまだまだある。『つながるジャーナリズム』を模索して、読者との関係性を再生産していきたい」(北原さん)

イベントを終えて

トミオカクミコ(EDIT LOCAL LABORATORYインターン)

一言で感想を言うと、とにかく大変面白かったです。

まず、さのさんが出された、メディアとはあくまで取材などを通して新しい仲間を生み出すツールでしかなく、地域で活動をしていくにはもう一歩先に踏み込まないといけない、という視点が印象に残りました。
私自身もまちの人と作る超ローカルラジオを運営しているのですが、その地域の人のリアルな声を聞き、対話したり取材をすることで、メディアとしてのレベルはもちろん、さのさんがご指摘したようにそれが地域での「活動体」になり得るのだなと思いました。メディアを通して人々の関係性を繋ぎなおしているという感覚があります。ゲストやオンラインで視聴したメディア関係者の方にも、刺激になったのではないでしょうか。

また、横浜という地域にもひかれました。関口さんのプロジェクトが迅速にスタートが切れたのも、以前から共創推進課が市民活動を支援してきたこと、地元愛が強くコミュニティー活動が昔から根付いている地域ならではかもしれないと思いました。

今回頻繁に言われていたのは「編集を弱める」という言葉。トップダウン型の一方的な情報発信ではなく、受け取り側の関わる余白を残した、ボトムアップ型の双方向メディアを目指すことで、それがひいては編集を弱める=地域を編集するに繋がるのかなと思いました。私も地域の編集者を志すにあたり、まずは編集力を磨いていきたいなと思います。

阿部圭介(ニュースパーク)

今回のイベントは、コロナ禍におけるローカルメディアの現状を共有し、これからも活動を続けるためにどうすればいいか見いだしたいという趣旨で企画しました。しかし今回のシンポジウムで、新聞社のスピーカーだけでなく、みなさんがキーワードとしていたのは「ジャーナリズム」でした。時代が変わり、情報環境が激変しても、ニュースを掘り起こし、問題提起するという役割への期待を感じました。新聞や放送が唯一無二の情報メディアという時代に戻ることはありえません。ジャーナリズムを維持し続けるために、ローカルメディアにも、新聞社とコラボしたいという希望があることなどを共有しながら、解決策を探るお手伝いをしていきたいです。

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EDIT LOCAL LABORATORY事務局(EDIT LOCAL LABORATORY)

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