「コミュニティキャピタル」から見るEDIT LOCALなあり方

2019.5.10 江口晋太朗

アメリカの起業家で作家のジム・ローン氏が、こんな名言を残しています。

「人は、もっとも多くの時間をともに過ごしている5人の平均になるものだ」

私たちは、知らず知らずのうちに周囲の人たちから影響を受けながら生活をしています。他者から受け取る多種多様な情報や思考の癖といったあらゆるものの蓄積が、自分自身を形作っています。それは5人だけにとどまらず、日常的に接している人たちの蓄積がまさにその人自身へと反映されているのです。

地域の様々なプロジェクトに関わるなかで、一度客観的な視点に立ち、ふとこうした考えで振り返ってみるのはどうだろうか。長くその地域に住んでいると、ついつい自分たちにとって当たり前のものだと思ったものが、外の人から見たらすごく価値があるものであることに気付かされます。外の視点が含まれることにより、自己内省的に地域を見る視点を持つことができます。

しかし、自分の周囲の人が同じような立場や考えだけの人だったらどうでしょうか。限られた情報や知識、経験、ある種の偏った考えが増幅・強化され、閉じたコミュニティへと次第になっていく。こうした現象を「エコーチェンバー」と表現します。インターネットが生活のなかで当たり前になっている現代、自分が普段得ている情報が検索サイトのアルゴリズムによってパーソナライズ化され、見たくない情報が遮断され一部の情報しか見えなくなることを「フィルターバブル」現象と呼び、社会の中で分断や断絶を生む要因となることが指摘されています。

これらの現象は、これまでの地域が置かれていた状況と似ています。かつて、地域のなかだけで生活をし、地域のなかだけで仕事をしてきた時代は経済圏や日々のコミュニケーションが成り立っていたかもしれません。しかし、現在では多様な視点を持った人が地域に関わり、その地域の価値や文化を再構成していく流れが起きはじめています。

高齢化や地域の担い手不足、地元産業をいかにして盛り上げるかなど地域経済や地域の社会課題がいくつもあるなかで、地域に関わる人達の振る舞い方や、人と人とのつながりによるネットワークのあり方が問われているのではないでしょうか。いわゆる「関係人口」がいま注目されていますが、地域に関わる人たちの多様さを増すことによって、地域の価値を発掘することが求められているからだといえます。

複数の立場でまちへの視点を持つ

地域が自らの価値を見出すためには、その地域に関わる人が、これまでの閉ざされたネットワークではなく、多様なネットワークを作り出しそこから新たな価値を作り出すことが求められています。

ローカルメディアが注目されてきたことの一つに、従来の通り一遍な地域情報誌ではなく、編集的視点をもって「メディア」を作り、様々な立場の人たちと地域をつなぐ役割を担ってきたことが挙げられると思います。編集に携わる人の多くが外部からの移住者や、一度外に出て、地元に帰ってきたIターンの人であることからわかるように、外の視点を持った人が、客観的、もしくはその人のある種の主観的な立場をもとに地域の情報を編集し、コンテンツとしてのクオリティを高め、そして様々な手法をもとに外とのつながりを作ったり、時には内部にいる人たちに対して今まで気づかなかった地域を改めて認識するきっかけを提供したりする装置となってきています。

それ以外にも、この「人」のネットワークを広げるきっかけを生み出す取り組みはいくつかあり、すでに意識的か無意識的かはわかりませんが、実践している人も多いはずです。私がこれまでに実践した一つの「DigDig City」は、一言で言えばまち歩きですが、その設計に一工夫を加えています。

一般的なまち歩きは、集まった人たち各々で自由にチームを組むことが多いですが、DigDig Cityは、まち歩きをする舞台が地元の人と近隣に住んでいる人そして遠方の人という3つの立場の人で一つのチームを作り、複数チームによって企画を成り立たせたことが特徴の一つです。

過去に滋賀県彦根市で行った際には、彦根在住の人、京都や大阪などの近隣都市に住む人、そして、東京に住む人といった三層構造のチーム構成で、トータル3つのチーム(A〜C)を作り、それぞれチームは「まちの探検隊」として、歩くエリアそれぞれをバラバラに、まちなかで個性のあるもの、魅力あるものを「掘り起こす」ことをテーマに行いました。

散策中、まちなかで個性ある建物やお店、現象を見つけたらスマホで写真撮影をし、見つけた場所を地図に落とし込みます。メンバーそれぞれに「マッパー」(地図に書く人)、フォトグラファー(写真を撮る人)、ライター(見つけたものにコメントを付ける人)など、役割を付与させることでチーム全体としての一体感を作り上げます。

互いに面白いものを発見したら適宜それを共有したり議論したりしながら歩きます。ときには地域住民の人たちにヒアリングしながら、様々な情報を集めていきます。地元の人にとっては何気ないものでも、その土地以外の人にとってみれば、まちなかは発見がいっぱいあります。そうした気付きを、まち歩きをしながらピックアップしマッピングしていきます。

数時間後、まち歩きによって見つけたものや体験したもの、まちゆく人たちとの対話をもとにメモした内容を書き起こし、地図にポイントをいれつつ、カード化します。カード化では、チームでメモした内容をもとにそのポイントがどういったものかをまとめていきます。これにより、仮に同じポイント、同じ体験をしたとしても、その時の状況やチーム構成によって、蓄積される情報が変化していきます。カード化をもとに、最後はチーム内で面白かったものベスト3を各々発表するまでを一連の企画の流れとしました。

カード化の内容やプレゼンによって、改めてこの地域の魅力や良さ、体験を情報として得ることができます。仮に地元に住んでいる人であっても、これら一連の行為による情報の「編集」体験によって、長年住んでいても気づかなかったことに驚かされた人もいました。

チーム内の構成も立場や普段住んでいる場所が違うことで、一つのまちを見る視点も大きく変わってきます。誰かにとっては当たり前なものであっても、誰かにとっては不思議なもの、目新しいものになってきます。複数の立場からまちを多層に見ることにより、住んでいる者では気づかない視点や、自身の住まう地域との違いを浮き彫りにする行為といえます。

また、地図を互いに作る過程を通して、地図そのものからまちを知り、地図づくりを通してまちを理解していく学習プロセスも含まれています。よく知ったまちも、見方を変えると違った体験が生まれその土地のことを深く知るきっかけとなり、初めてその土地を歩いた者は、新鮮な目線と体験によってそのまちの文化を知り、固有の体験を通じてそのまちに対する愛着が構築されます。チーム内のメンバーそれぞれ立場が違うがゆえに起きるコミュニケーションや、まち歩きという共通体験を通じて得られる仲間意識や関係性が構築されていきます。

地図そのものがインターフェイスとなり、まち歩きを通して、それまで知っていた自分たちのまちの新たな側面を発見した参加者は、発見した情報をもとに他の参加者らに情報がフィードバックされ、まちの情報が更新されていく。地図というインターフェイスは、その中に定着された情報をきっかけにした行動を促し、そして行動がさらに別の情報を発見するというかたちで、人の経験の連鎖をかたちづくっていきます。他人事からまちを「自分ごと」化し、他者との共有体験を通じて、当事者意識を高めることができるのです。

コミュニティキャピタルを生み出す場を目指して

立場や考えが違えど、地域を思う眼差しは同じだが、それまでの経験や能力、考え方の違いによって時に衝突することもあるかもしれません。それこそ、その地域に長く住む人と、行き来はするが住んでいない人によってその関わり方は違うでしょう。

地元の人たち同士の媒介のみならず、外との接点を作り出す媒介役として、ときには翻訳者としての編集者の必要性を考えたとき、複数の視点、複数の立場から地域への関わり方をうまく生み出すことで、スモールなコミュニティから多様なつながりを築くきっかけが生まれてきます。

六次の隔たりで有名な「スモールワールドネットワーク理論」を発展させた「コミュニティキャピタル」という考えは、まさにこの地域への関わりの多様性をもとに、コミュニティのなかに多種多様なつながりを作り上げることで活性化を促しながら持続可能にものにするヒントになります。

コミュニティキャピタルが重要視する「緩やかな紐帯」を生み出すためには、メンバー間における成功体験や共通体験が欠かせません。なにがしかの共通の「つながり」があることによって、コミュニティに帰属する者同士のつながりを構築しやすくなります。先に紹介したDigDig Cityはまさに共通体験という「つながり」を生み出すきっかけを作りながら、地域に対して新たな関係性を発生させる仕掛けであると読み取ることができます。

そして、「緩やかな紐帯」を強みとして活かすために、コミュニティに関わる人を「現状利用型」「動き回り型」「ジャンプ型」「自立型」の4分類に類型していることも特徴としており、コミュニティ内でそれぞれ違った動きや立場がいる人を許容することで、多様な外とのつながりが生まれてきます。4分類に類型された立場の人たちは、それぞれに違った活動領域で行動しながらも、日々の活動で得られた情報や経験をコミュニティに還元することで、結果としてコミュニティが持続可能で柔軟さを持つようになるのです。

人のつながりの多様さをいかに作るか。これはこれからの地域が考えるべき一つの課題であり、そしてまだまだ可能性に満ちたものではないでしょうか。だからこそ、EDIT LOCAL LABORATORYが目指すものは、一つの地域にとどまらず、複数の地域を超えながら、そこにいる人たち同士がつながる場を目指しているといえます。

地域で活動する実践者は、普段はその地域の内部の人たちとのコミュニケーションを大切にしていますが、時には外部の地域や立場や職種を超えた人たちとの接点を作っていかなければ、偏った人たちだけのつながりになってしまいがちです。外からその地域に入ってきた人であれば、なおのこと、外との接点を維持したりつながりを強固にしたりすることを考えているはずです。

そうした外部とのつながりを求める人たちが集い、情報交換や議論を重ね、ある種の共通体験を築きながらも、立場の違った人たちが地域に関わるきっかけをつくる。人は、いくつものコミュニティに所属しながら生活し、仕事をし、日々を過ごしています。そして、人との出会いによって、新たな地域とのつながりが生まれる可能性もでてきます。

新たな出会いをもとに、関わるすべての人たち同士が互いに協力、共創しあうことで新たなつながりが生まれる場となることが、EDIT LOCAL LABORATORYの大きな方向性です。ここからどのようなものが生まれていくか、これからのまだ見ぬ可能性を楽しむことに期待したいです。

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ライタープロフィール

江口晋太朗(Shintaro Eguchi)

編集者、ジャーナリスト。「都市と生活の再編集」をテーマに誰がもその人らしい暮らしができるまちとなるための都市政策や地域再生、事業開発やコンセプト設計、研究リサーチを行うTOKYObeta Ltd.代表。著書に『日本のシビックエコノミー』(フィルムアート社)『ICTことば辞典』(三省堂)などがある。

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