月間75万人以上に読まれるデータ・DXに特化したWEBマガジン「データのじかん」の人気特集「Local DX Lab」。「Local DX Lab」では全国47都道府県の各地域のDXやテクノロジー活用のロールモデルや越境者を取材し、地域に根ざし、その土地ならではのDXの在り方を探っています。取材・執筆にはEDIT LOCAL LABORATORYのメンバーも。10月12日(水)〜10月14日(金)に開催されたDXでビジネスをアップデートする国内最大級のカンファレンスイベント「updataDX22」でのセッションでは京宮城/徳島/福岡とエリアだけではなく、業種、ビジネス形態に至るまで全てが異なる3名を招聘して、多様なDXの取り組みとそこからの法則性、そして成功に至るまでの失敗のマネジメントを伺いました。
宮城/徳島/福岡のDXトップランナーのご紹介
一般社団法人DX NEXT TOHOKU 理事・事務局長 淡路 義和 氏
新卒で大手IT企業に就職し、本田技術研究所、気象庁などの案件でSE、プロマネとしての経験を積む。2006年独立し、移動販売式の飲食事業や零細ソフトハウスの経営に携わった後、2009年「ITを軸としたモノ・コトづくり企業」株式会社コー・ワークスを起業。2019年には、同社IoT事業をカーブアウトし、株式会社アイオーティドットランを興す。2021年2月、一般社団法人DX NEXT TOHOKU(略称 : DNT)を設立。2022年6月には仙台・東北DXエコシステムを立ち上げ、東北地方のDXに深く携わり続けている。
○淡路氏取材記事
東北地方におけるDXの課題と可能性は?「人が減っても豊かで幸せな未来を創る」をミッションに掲げる一般社団法人DX NEXT TOHOKUを取材
有限会社小田商店 代表取締役社長 小田 大輔 氏
水道設備機器販売会社の3代目社長。1946年、祖父が個人商店として開業し1953年に法人化。祖父の必要とされる腐らないものを売るという経営方針で、工具や水道部品などを取り扱う。2000年代に水道部品の販売を強化。現在ではB2Cサイトも運営し全国へと輸送開始。経営理念は「水の恵みをすべての人に」、社是は「共に喜び、共に育つ」。経営は全てリモートで対応しながら、興味の赴くまま、日々全国を巡り歩く。趣味は歴史、登山、サウナ、星占い。
○小田氏取材記事
水の流れのように、自然に。経営者がいなくても回る組織の在り方と経営者だからこそできるDX実装への働きかけとは?
一般社団法人ノンプログラマー協会 代表理事 高橋 宣成 氏
株式会社プランノーツ代表取締役。一般社団法人ノンプログラマー協会代表理事。20代はサックスプレイヤーとして活動し、30代でモバイルコンテンツ業界でプロデューサー、マーケターなどを経験。2015年に独立、起業しオンラインコミュニティやメディア運営のほか、研修、セミナー講師などを行っている。「詳解! Google Apps Script完全入門 [第3版]」や「Pythonプログラミング完全入門 〜ノンプログラマーのための実務効率化テキスト」など書籍の執筆も多数。東京都板橋区から2022年4月に福岡県糸島市に移住。
○高橋氏取材記事
“学習=痛み”の固定概念を減らすことが、現場の未来を切り開く。越境学習によるノンプログラマーのスキル育成の可能性とは?
ウイングアーク1st株式会社 データのじかん編集長 兼 メディア企画室 室長 野島 光太郎 氏
広告代理店にて高級宝飾ブランド/腕時計メーカー/カルチャー雑誌などのデザイン・アートディレクション・マーケティングを担当。その後、一部上場企業/外資系IT企業での事業開発を経て2015年ウイングアーク1st入社。静岡県浜松市生まれ、名古屋大学経済学部卒業。
DX・変革のスタートダッシュのススメ
社員が気兼ねなく意見できる環境づくりと経営者としての覚悟(小田商店 小田 氏)
私が24歳の時に小田商店に入社した当時は、20〜30代の社員が全くおらず、社員のほとんどは50代の人ばかりで、「10年後にはほとんどいなくなっているのか…」と思った記憶があります。
また、ほとんど個人商店に近い会社組織だったため、教育システムや採用システムがあるわけでもなく、新入社員への教育は映画で見るような「とりあえず見て覚えろ」という感じで、正直絶望しました。
そこから2、3年経った頃、輪をかけるように父親が株を保有していた会社が倒産し、父はその処理を私に丸投げしたんです。その伝票処理だけで夜10時まで仕事をしなくてはならない日々が続いて、「このままだと売上を上げようにも仕事時間が増えるだけだ、バックオフィスをもっと効率化させないと!」と感じて、何か行動を起こさないと…と、動き出すことにしました。
まずは8,000点ほどある在庫にバーコードをつけることにしたんです。当時社員には「それだけの数、どうやってバーコードをつけるんだ」と言われましたが、「アルバイトでも雇ってまずはやろう」と説得し、実際にやってみたところ、3ヶ月後には事務処理の時間が大幅に削減され、夜10時までかかっていた仕事が6時には帰れるようになりました。これが第1のステップでした。
–8,000点もの在庫にバーコードをつけるのは本当に骨が折れる作業かと思います。社員の心理的安全性を保つために何か意識されたことはあるんでしょうか。
結果的に心理的安全性が確保されている、という感じに見えるだけなのかもしれません。大切なのは、なんのために心理的安全性を確保するのか、というところだと思います。
心理的安全性を確保する目的は、社員が自由に意見を言えるようにするためであり、社員が自由に意見を言えるようにする目的は、利益を上げたかったり、結果を出したいから。この点において経営者として重要なのは、もっと欲深く、「儲けたい」と全面的に発信し、それに対して社員が思うことに対して耳を傾けることです。社員一人ひとりが結果を出すために、経営者に対しても臆することなく発言できる環境を作ることが大切だと思います。
–それと、社員に任せる部分の一方で、経営者でしかできないM&Aや資金調達の面などでDX関する活動をされていると思うのですが、その辺りも伺ってよろしいでしょうか。
システム投資に関しては、結果がなかなか出ないものに人員を割き続けるわけなので、それなりの算段と覚悟を持って臨まなければならないですよね。
投資し続けて結果が出るのが3ヶ月後だったり1年後だったり、下手すると2〜3年後なんてこともありますし、苦しくなった時に「辞める」選択肢を取ると一向に進まなくなりますから、とにかく計画と腹積もりを持つことが経営者にとって重要なことだと思います。
これからを生きるデジタルネイティブ世代を主役としたエコシステムの構築(一般社団法人DX NEXT TOHOKU 淡路 氏)
私が活動している東北はQOL(クオリティ・オブ・ライフ)が非常に高いです。食糧自給自足率もエネルギー自給自足率も非常に高いため、果たして本当に経済活動が豊かさをもたらすのか、という部分に疑問を持つ価値観を持っている人もいます。
しかし、誰がどのような価値観をもつのかが問題なのではなく、選択肢が少ないことが問題なのです。
地元の東北は好きだけれど、選択肢が少ないから結果として首都圏へ出ていってしまう、という話を新卒採用時の学生や自分の息子からよく聞きます。その話を聞いて、私は経営者として働く場所の選択肢を作れていない、という点において非常に責任感を感じました。
一方で、各業界内においてDX推進のための団体などが発足している中で、目標や具体的な道筋などを立てて行動できている団体はあまり多くないのでは、とも感じています。目的や目標があるのであれば、そこから逆算してやるべきことを明確にする必要があるのではないでしょうか。
なので、私が立ち上げたDX NEXT TOHOKUは創立5年で解散することを目標としています。5年もすればDXという言葉自体もトレンドでは無くなって、世間ではある程度当たり前のものになっているのではないかと仮説を立て、そこに対して私たちがするべきことは何なのか、ライフサイクルをしっかり回して終えることを目指しています。
現在私たちが5年で実現させようとしている姿は、企業活動や身近な場面においてデジタル化をして課題を解決し、価値を見出すサポートをするエコシステムを東北全体に展開していくことです。2年目となる今年は、仙台を中心にこのエコシステムを構築中で、主役として20〜30代の人を据えています。
これまでDXというと、40代が主役となって動くイメージがありましたが、デジタルネイティブでもなく、これからの未来を担うわけでもない世代が主役になったところで非効率です。エコシステムを構築するということは未来を作るということですから、あくまで40代の人たちは主役である20〜30代の人たちを知識や経験の面でサポートする立場であってもらうようにしています。まずはデジタルネイティブ世代が主役の組織を実験的に作り、結果を精査し、他の地域に展開する活動を行っています。
スキルアップと内面育成に効果的な越境学習のススメ(ノンプログラマー協会 高橋 氏)
お二人のお話を伺っていると素晴らしいマインドセットをお持ちだな、と感動したのですが、残念ながら世の中の経営者は中々そうはいかないな、とも思いました。特に、長年やっている会社だと、勤めている人も固定化されて、DXどころか経営を改善するということも難しくなってしまいます。
そこで私たちが取り組んでいるのが、「越境学習」です。
越境学習はホームとアウェイを行き来する学習形態のことを指すのですが、私たちの場合、ホームとは慣れ親しんだ自分の会社の環境を指します。そしてアウェイとは、まさにその逆で、不慣れでアウェイ感を感じる環境を指します。私たちはアウェイの環境としてノンプロ研をオンラインで提供し、そこでプログラミングを学習したり、他社の人と交流できる環境を作っています。
越境学習で何ができるのかというと、まず、今までの固定概念が覆されます。ノンプロ件の中には一般的なサラリーマン以外にも歯医者さんや農家さんなど多様な人材がおり、そのような人たちがチャットツールを通じて自分が知らない話題で会話をしています。そうした環境に突然入ることで、自分が知らない世界に触れ、強いアウェイ感と葛藤するようになるのですが、同時に新しい知見や刺激を受けて、自分のマインドセットに大きな影響を与えられます。
変わらないといけない、チャレンジしないといけない、という考え方や、自分も学習をしなくては、という思いを私たちは「冒険する力」と呼んでいるのですが、このような内面的な成長がDX人材の育成に非常に適しており、ありがたいことに様々な方面から注目されています。
内面的な成長に加えて、もちろんITやプログラミングの知識も身につけることができます。さらに、自身が知識を身につけるだけではなく、ノンプロ研のコミュニティの中でお互いに学び方や教え方などをシェアすることで、さらに効果的な学びができるのです。
実際に4社の企業に協力いただきトライアルを実施しているのですが、自身のIT・プログラミングスキルの向上の他、個人・チームの仕事の改善や、改善に対しての更なるブラッシュアップのマインドセットの育成、また、他部署の越境学習者とのコミュニケーションを通じて課題やアイデアの共有などが促進されたり、想定以上の成果を出すことができました。
しかし、DX人材を育成するには越境学習の仕組みだけでは足りないとも考えています。この不足分を補うためのポイントが4つあるのですが、まず1つ目は「リーダー層から順番に越境学習を行う」という点です。現場のスタッフがいくら越境学習でスキルを高めても、上の人間の理解が得られないとものすごいストレスになりますし、なかなか物事が進まない、ということが起こり得るため、リーダー層の理解が必要になります。
2つ目は「社内にも学ぶ場所を作る」という点です。DXを推進しようと思うと、初めはどうしても孤独になりがちなので、会社としてしっかりサポート体制を作ることが大切になります。
3つ目は「センスメイキング」です。これは、小田さんの話とも重複するのですが、腹落ちという部分でしっかりと覚悟を持って進めることです。越境学習を取り入れるのであれば、社全体として越境学習者を応援するよう、トップからメッセージを明確に発信することが重要なポイントとなります。
そして最後に「組織改革」です。センスメイキングとも関連しますが、いくらマインド面でサポートしても、改善のための組織の仕組みが変わらなければ、学習した内容は生かしきれません。会社のコミュニケーションの仕組みから変えていくことで、より円滑に変革を進めることができると考えます。
失敗のマネジメント – フリーディスカッション
これまでのお話を伺って、モデレーターの野島氏よりの投げかけで、パネリストの方々にそれぞれ自身が取り組んだ活動を通じて、失敗に対してどのようにマネジメントを行うべきか、ポイントやエピソードなど伺いました。
失敗を悪いことと捉えず次の糧にする(ノンプログラマー協会 高橋 氏)
「失敗」という言葉への抵抗感をまず捨てる必要があると思います。
これはDX推進に限らずコミュニティや会社経営においても同様なのですが、新しいことを始めれば、必ず何かしら失敗はつきものです。その失敗から立ち直れなくなるような事態は問題ですが、失敗は一様に悪いことではなく、成功するために必要なヒントとして捉えて、小さな失敗をしてもカバーできる環境を作ることが大切だと思います。どんどんトライしましょう。
もう一度目的に立ち返る(小田商店 小田 氏)
失敗したことに対して、その失敗は何のためにやっていたのか?という目的にもう一度立ち返ることが非常に大切だと思います。
失敗をすると失敗したことばかりを考えがちですが、何のためにそれを行っていたのか振り返ると、そもそも目的から間違っていたのではないか?という発見ができたりするため、失敗したら目的を見直しつつ改善していくことが大切です。特に、システム化をする場合だと「このシステムはなくても良かったのでは?」ということもあるので、根本を見直すようにすると良いと思います。
自己受容できる環境を会社組織として作る(一般社団法人DX NEXT TOHOKU 淡路 氏)
お二人が話していた「失敗を経験と捉える」「潰れない程度に失敗ができる環境を作る」という点は非常にアグリーできます。それを前提とした上で、さらに大切なのは「自己肯定感(自己受容)」だと思います。
心理的安全性とも非常に関連性がある内容ではありますが、失敗をしてしまうとどうしても「失敗した」という負の感情に引っ張られてしまうんです。そこを会社としてメンタルをサポートできるように、失敗を担保できる環境づくりが大切だと考えます。
ミドル層・従業員の視点から見るDXとは
最後にまとめとして、ここまで経営者の視点からDXについてお話を伺いましたが、中間管理職層や従業員の立場からどのようにDXを捉えればいいのか、一言ずつ伺いました。
変革している事柄を会計科目に置き換える(小田商店 小田 氏)
会社を変える、結果を出す、という視点で物事を捉えるのであれば、自分が変革を行おうとしているのはどの会計科目に該当するのか、ということを考えることが大切だと思います。
評価する側も明確に評価できますし、自分が生み出した価値を算出しやすいため、会計科目に置き換えて考えることが非常に大切です。
視座を上げて俯瞰的に物事を捉える(一般社団法人DX NEXT TOHOKU 淡路 氏)
目的意識を明確に持つことが大切です。
特に中間管理職なら上の人、下の人両方を鑑みる必要があると思いますが、改善に対して目先のチームのことだけではなく、視座を高くして、全体最適で俯瞰的に物事を見ることが非常に大切にです。
会社の一員として考え行動を起こす(ノンプログラマー協会 高橋 氏)
現場のスタッフだったとしても、会社の一員であるということには変わりません。
DX変革という点において経営者の方ができることが多いため、責任を経営者に押し付けがちですが、自分も組織の一員として何ができるのか、会社にどういった影響を与えられるのか、しっかり考えればできることは必ずあるので、誰かのせいにせず、思考を停止せず、一人ひとりが考えて行動することが大切だと思います。
まとめ
今回のお話は、技術的な面や具体的な取り組みはもちろんですが、経営者としての考え方、一従業員としての考え方など、マインドセットについて非常に考えさせられる部分が多くありました。
自身の知識やスキルを高めるだけではなく、会社という組織をどのように改善するのか、そのためには何が必要で誰の協力が必要なのか、一人ひとりが目線を合わせて取り組むことが大切だと感じました。