地域の内側発。リアルに人が集まる広報の実験

2020.2.22 上浦未来

はじめまして。
昨年から「EDIT LOCAL LABORATORY」のメンバーとして、参加させていただいている上浦未来です。

2019年の冬、「ゲストハウスますきち」南慎太郎くんとともに、“せともの”の街・愛知県瀬戸市を拠点に活動するPRチーム「ヒトツチ」を立ち上げました。
瀬戸市は1000年以上やきものをつくり続けている、世界でも類をみない産地です。「火の街、土の街」と呼ばれ、そういった土壌がある上に、人の暮らしがある。
現在は、陶芸に限らず、現代アーティストやガラス、銅作家など、様々な作家も多く、“ツクリテ”の町として、拡がっています。そんな背景から「ヒトツチ」は誕生しました。

私は瀬戸市出身で、関東を拠点に10年以上ライターしていた経験を生かし、「#つたえる」担当。既存の媒体で瀬戸を紹介する記事を書く、都市部ではなく、地元企業のパンフレットやHP制作を生業にしています。瀬戸市の町歩きエッセイ『ほやほや』を書いて、町の情報発信もおこなっています。

南くんも瀬戸市出身、北海道大学を卒業後に地元へと戻り「ゲストハウスますきち」をオープン。今時の起業家タイプで「#はじめる」を担当。さらに現在は、春オープンに向け、創業70年の「陣屋丸仙窯業原料株式会社」の5代目・牧 幸佑さんとともに、あと10年で底が尽きるとも言われる“粘土の価値”を高めるためのシェア陶芸スペース「CONERU」(仮)の開店に向け、準備中です。

わたしたちの活動の根底にあるものは、「ユカイに暮らす、仲間を増やす」こと。自分の住みたい地域で、生活が成り立つようにしたい。
地域で活動するためには、地域での人脈があると、例えば物件や許可関係で、非常に融通がきいて活動がしやすかったり、都会のように放っておいても人通りがある訳ではまったくないため、外へ向けての発信は必須だと考えています。

そのため、東京、大阪などの大都市はもちろん、いわゆる地方都市の宣伝や広報の仕方とも、異なるやり方が必要ではないかと考えています。
わたしたちがめざすのは、ネット上で話題になることではなく、何度もリアルに足を運んでもらうこと。

ここ2年ほど、小さな実験を試行錯誤繰り返してきました。
その結果、PR=public relatuins、つまり社会との関係性づくりを軸に、令和の時代こそ「リアルな口コミ」という古典的な方法に回帰することで、もっとも人に興味を持ってもらい、行動に移してもらえるのではないか?
そんなふうに考えるに至りました。その事例を2つ、お伝えします!

事例1)ゲストハウスますきちの場合

大学卒業後、南くんはいきなり起業し、瀬戸市内の中心市街地で「ゲストハウスますきち」をはじめました。瀬戸市内でも、いわゆる新興住宅地の出身だった南くんは、地元に帰ってきた時点では、宿近くの商店や地域の人の知り合いはなし。同世代はほとんど市外へ出ている状況でした。

そんな中、仲間をつくるために何をしたのか? 
それは、地道な人とのリアルな交流です。

①地域の祭や行事、町内会などの手伝いをする。町の商店主にご挨拶する。
②東海エリアの宿のオーナーをはじめ、地域のキーマンや起業家に会いに行く
③古民家の改装現場をオープンにして、一般の人と一緒に宿をつくる

この3点です。
①は地元の人に顔を知っていただき、地域で応援してもらえるように。
②は宿同士やキーマンのつながりができ、お客さんも行き来するように。
③は、延べ300人を越え、一緒に手伝ってもらい、何度も通ってくれる人も。

ここでリアルなコミュニティの土台が築かれました。
と同時に、facebookで「瀬戸市でゲストハウスをつくる」を立ち上げました。大事なことは、このリアルで濃いコミュニティがそのままSNSに移行しているということ。そのため、「ますきち」では、数あるSNSのなかでもっともfacebookに重点を置いています。

濃いコミュニティがあることで生まれる、宿泊以外の事業

このコミュニティは、「ますきち」の宿の売上にも、はっきりと反映されています。

「ますきち」は、宿です。けれど、使い方は自由です。
①の地域のみなさんから相談されて、場所貸しが始まりました。商店街のみなさん、市役所のみなさんによる宴会やイベントの利用からはじまり、ヨガ教室やプログラミング教室、さらに今では、登校拒否の小中学生向けのフリースクールでの教室としても、毎週ご利用いただいています。

②の宿オーナーのつながりでは、お互いに泊まりあい、それぞれのショップカードを置かせてもらい、積極的に紹介し合っています。また、いいイベントなどは、お互いにアイデアを活用し合ったりも。
また、宿オーナー以外では、南くんと同世代の起業家による企業合宿をきっかけに、学校や企業などの合宿スタイルが定着しました。

③の改装をともにしたメンバーは、もっとも「ますきち」出没率が高く、宿泊はもちろん、年に1度の「せともの祭」といった大きなお祭りやイベントなどで人手が必要なときに声をかけると、楽しみ方上手な運営メンバーに。

関わってくださったメンバーを軸に、どんどん宿の口コミが拡がり、宿のあり方は変わっています。
1年ほどで雰囲気づくりができたところで、Booking.comでまったく初めての宿泊客も募集し、その結果、現在は家族の個室需要が大きいとわかり、個室を増やすなど、改善しています。昨年はキャパ13名(現在は17名)で、1年間に800名宿泊いただけました。最初は知り合いばかりでしたが、知り合いの知り合いと、徐々に輪が広がり、大型連休では遠方からのご家族連れがとても多くなってきました。

事例2)パン屋「aime le pain」の場合

昨年の7月、私の弟が夫婦でパン屋を開きました。
ありがたいことに、開店以来ずっと完売が続いており、10時の開店からお昼までが勝負で、その時間帯で多くはなくなり、14時か15時には閉店してしまいます。毎日70〜80名のお客さんがやってきてくださっています。

パン屋は、おいしいパンであれば、どんな場所にあっても、人がやってくることが定説としてあります。とはいえ、初動には人に伝えることが必要です。立ち上げ時にPR・広報を担当したので、チャレンジしたことをお伝えします。

①町にパン屋ができると言いふらす
②試作を「ますきち」やご近所で配る
③発信する(Instagram、HPを制作する、『ほやほや』で記事を書く、「google map」を整える)

地域での発信方法とその結果

①については、地域で「パン屋がオープン」するということは、とても大きなニュースだと実感しました。何気なく、パン屋ができると伝えると、「いつできるの!?」「どこでできるの!?」と、矢継ぎ早に質問され、本当にうれしいと喜んでもらえました。

それほど注目されるとも思っていなかったのですが、偶然、それが広報になりました。とりわけ、地域の喫茶店や美容室のほか、個人店は情報源となり、どんどん話してくださいます。3代続くお店などだと、かなり幅広い年齢層からお客さんがやってきてくださいます。

また、建物がオープンの1年前に建ち、それもまた長期にわたり、「あの建物は、何になるんだろう?」ご近所の噂になり、注目される理由のひとつになりました。

これらは、結果としてわかった体験談ですが、地域では、ニュースが乏しいです。そのため、何か新しい動きがあると、もれなく勝手に拡がっていく。需要に対して、喜んでもらえるような情報をのせていくといいなと感じました。

②は、試作がもったいなかったので、配ったのですが、それがオープン時の大きな呼び水になりました。

③本格的な広報としては、自分が立ち上げた媒体『ほやほや』で記事を書きました。いわゆるローカルメディアは、地元で熱烈なファンがいると、地域に根ざしている分、人がめちゃくちゃ動きます。

弟が超職人気質で、まったく表に出るつもりがなかったので、店主の思いを語るのは、この記事1本限りに。また、「おいしいを超えて、感動するパン」としてブランディング。それがお客さんの意見とも合致し「本当においしい!! こんなにおいしいパン初めて」と、SNS上やリアルな口コミが、どんどん拡がりました。

「Instagram」の場合、フォロワーが多くても、リアルに足を運ぶ人は少ない、売上につながらないケースもあるのですが、パン屋との相性は抜群。地元の人がチェックして、来てくださるケースが多いです。

最初の3ヶ月は一眼レフで気合いを入れて撮影しましたが、のちに店主たちにバトンタッチ。写真のクオリティをみれば、はっきりと落ちますが、ただ、お客さんが一度、定着すると、クオリティは関係なく、毎日更新することで、順調にフォロワーが増えていきます。

また、「google マップ」に注目。自らコメントを入れた結果(google my bussinessも導入)、半年で1枚の写真に対して、12,000以上のプレビューがあり、みんなでつくる新たなメディアになりうると感じました。mapが育つことで、瀬戸市、パン屋での検索にひっかかりやすくなり、半年でその検索ではトップに出てくるようにもなりました。

この結果から、ちゃんと場を温めて、そこに求められているものを提供すると、口コミの加速が圧倒的に早く、事業が軌道にのる。かつ、親しみを感じる、とてもいいお客さんに来ていただけているように思えます。

まだ実験の結果が出ているのは2か所で、業種によって、伝え方は様々だと思うので、今後も実験を繰り返す必要があると思っています。

お金を稼ぐより、人脈の積立て

私は、瀬戸に戻ってきた当初、“メディア病”で、これは目新しいから記事になる、記事にならないか、こうすればメディアにのせられるとついつい考えがちでした。けれど、地域を拠点に活動してわかったことは、大手情報系の雑誌やWebメディアに紹介されても、地域だと人はほぼ来こない。また、目新しさは必ずしも伴っていなくてもよく、お客さんが来てくれるかどうかは別問題という事実をつきつけられました。

それに、地域では完成品がかっこよくなくても、完璧でなくてもいい。
近寄りがたいものにするよりも、身近なものの方が愛される。
HPにしても、依頼があった個人事業主や企業がたくさんお金を持っていて、出せるわけでもない。それなら、できる範囲で何をできるか? Google マップなどの無料で効果があるものをつくる、といった方法に切り替えるなど、やり方を伝える方がいい。それを伝えることも、ひとつの仕事になるのではないか? と考えて、一緒に協力し合い、つくることを考えるようになりました。

最初にお伝えしましたが、わたしたちの活動の目的は「ユカイに暮らす、仲間を増やす」こと。これからはお金を稼ぐより、人を集めることの方が困難な時代が到来するような気がしています。近所にユカイに暮らす仲間さえいれば、みんなで生き抜くすべは考えられる。
今、ますきち界隈、徒歩10分圏内だけでも、年に5人ほどずつじわじわと人が増えています。盛り上がると、盛り下がるので、できるだけ“盛り上がらない”ように、PRを大切に淡々と仲間づくりをしていきます!

マップ

ライタープロフィール

上浦未来(Miku Kamiura)

1984年生まれ。愛知県瀬戸市生まれ。東京・神保町の小さな出版社で編集を担当し、フリーランスのライターに。旅、地域のこと界隈に執筆。2018年に地元へと戻り、瀬戸市の町歩きエッセイ『ほやほや』を立ち上げる。編集室はゲストハウスますきち。2019年7月、瀬戸市にオープンする、実の弟が開くパン屋「aime le pain(エムルパン)」の店番&広報係。

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