Happy Outdoor Weddingができるまで(後編)

2017.11.24 柿原優紀

愛知県岡崎市の篭田公園でのアウトドアウエディング(撮影:豊住千明)

こんにちは。編集者の柿原優紀です。tarakusa株式会社という会社を立ち上げ、地域文化やまちづくりといったジャンルのメディアを編集する傍ら、地域資源を編集し、公園や公共施設、畑、キャンプ場、団地などの地域フィールドにハレの光景をつくる「Happy Outdoor Wedding(以下、H.O.W)」という事業を行っています。前篇では、小さなメディアからローカルイベントが生まれ、そしてその事例がまたメディアに乗って全国に広まった様子をお話ししました。今回は、続編として、私たちH.O.Wが全国で根付かせようとしている「地域資源を活用したハレの日づくり」を紹介します。

「公園でのウエディング」に公式な許可は得られない?

アウトドアウエディングがメディアやSNSで少しずつ人々の興味を引きはじめていた頃。松戸での開催(前篇で紹介)では地域からのリクエストやサポートもあり、地域の公共空間をフィールドに、景観、人、食材、文化などの地域資源を活かした結婚式づくりを実践することができました。これをきっかけに、私自身「こんなことを発信するメディアがあったらおもしろいのでは?」「こんなことが実現できたらいいな」という市民視線から、「地域空間と地域資源を組み合わせることができれば、新郎新婦やゲストだけでなく、地域にも喜ばれる仕組みが築けるのでは?」と、まちづくりを含めた事業視線を持つようになりました。

H.O.Wへの問い合わせや、相談会などのイベントに来る新郎新婦たちから挙げられるなかで最も多いのは「公園で結婚式をしたい」という要望でした。実は、最初に私自身が描いていたのも公園での結婚式。私たちの事務所が位置するのが渋谷区富ヶ谷という代々木公園の西門の直ぐそばであることもあってか、代々木公園を挙げる人も多い。他には新宿御苑を始めとする都内の人気公園。さらに、「家の近くの〇〇公園」、「ふたりでよくデートした〇〇公園」、「毎年お花見をする、仲間たちにとっても愛着がある〇〇公園」などなど。「自分の好きな公園で結婚式ができたらどんなに素敵だろう」。それを実現する方法を考えてはじめました。

まずは、名前の挙がった公園の管理事務所に電話をしてみるところから。「そちらの公園でアウトドアウエディングを開催したいのですが、事前に許可などを取る必要はありますか?」。すると、窓口の中年らしき職員さんからは「アウトドアウエディング? ちょっと聞いたことがなくて、どんなものなのか分からないのだけど」という答え。アウトドアでウエディング、かなりシンプルで分かりやすいと思うんだけど……。めげずに自分たちが描いているウエディングのイメージを説明します。すると、少し間を置いてこう返ってきました。「前例がないのでちょっと……」。そりゃそうでしょう、ないから作ろうと思ったのだから。他の公園からも、「そういったことに特別な許可はしていない」といった返事ばかり。では、どういう手順を踏めば許可が降りるかと聞いてみても要領を得ない。前例がないから、フォームも無ければ、窓口もない。担当者もいないという感じです。要は、「明確に禁止もされていなければ、明確に許可もされていない」ということ。

当初から開催場所として新郎新婦たちから圧倒的に希望が集まっていたのが東京都内の都市公園。しかし、正面から指定管理団体にアウトドアウエディング開催の許可を求めて問い合わせてみても、門前払いの連続でした。たとえ閉ざされていた門が少し開いて検討してもらえても、たいした前進もないまま、結局は「前例がないので」と再び門は閉ざされてしまうのです。

希望者もいる。運営スタッフもいる。How toの事例もある。なのに、公式に許可を出してくれる場所がない。

「やってはいけないこと」ではなく「やってもいいこと」

多くの公園は、昭和31年に制定された都市公園法に基づき、各自治体や指定管理制度のもとで運営する管理者によって個別のルールを敷いて管理を行っている様子。例えば、「キャッチボール禁止」などの看板がそう。しかし不思議なのは、「禁止看板」の内容がどれも唐突でアバウトなこと。例えば、代々木公園の看板は「球技禁止」「ラジコン禁止」「スケートボード禁止」「花火禁止」「バーベキュー禁止」「鳥への餌やり禁止」。さらに、「音楽音量注意」「フリスビー注意」などなど…….。これまで苦情があったものを片っ端から禁止にしているのだろうというラインナップです。これでは、「公園でどんなことができるのか」が見えません。楽しげな光景を描くことができないのです。「やってはいけないリスト」ではなく、「やってもいいことリスト」と「やってもいい場所リスト」だったらいいのに。

H.O.Wは「HOW TO(やり方)」を紹介するサービスです。だから、公園側には、「やってもいいこと」と「やってもいい場所」を教えて欲しい。そして、前例がないものについては、どこにどのような手順で申請をすれば良いのか、どのようなルールに則って企画すればいいのかが明確になっているといいなと思うのです。

例えば、幼稚園の教員が園児の遠足での利用の希望を申請するフォームはある。しかし、もちろんそのフォームはウエディングの申請には使えない。そこに、「市民主催のハレの日イベント開催希望フォーム」もあっていいのではないだろうか。そうすれば結婚式以外にも、町民パーティー、お誕生日会や演奏会もできるかもしれない。

※ちなみに、公式に許可をいただいて開催した松戸の事例は、「公園」ではなく、国交省のもと各河川事務所が管轄する「河川敷」の使用許可を申請しています。

千葉県の茂原公園を始め、いくつかの公園では公式に許可を得られるように(撮影:引田さやか)

本当に「許可」は必要?

ただ、本当に「許可」は必要なのでしょうか?

「公園のルールを読み解き、禁止事項に触れない形を自ら考え、工夫を凝らしてルール内で開催すればいいのでは?」

私たちはそう考え、なかばゲリラ的に開催をスタートしました。ゲリラと言っても、「ルールなんて破ってもいいや」という心ではなく、「ルールのなかで楽しめることを思い切り楽しんで可視化する」という心での実行です。テントや場所取りのロープなど、その場を「占有」してしまうようなアイテムは設置しない。テーブルや椅子など長時間人が留まる道具も使わない。簡単に設置できて、まわりの様子を見て動かす必要があればすぐに動かすことができるピクニックのようなスタイルです。さらに、植物を傷める装飾はしない、音楽はスピーカーなどを使わず穏やかな生演奏を心がける、などの配慮も。一方、雨よけ日よけのテントやタープを設置したり大きめの派手な装飾や火を使った調理を楽しもうという企画では、園内にデイキャンプ場を持つ公園を選びました。

さらにこの範疇を越えてしまう大規模なもの、大掛かりな設営や演出があるもの、火気の使用、宿泊の希望などがある企画は、民間企業や個人が経営するキャンプ場へと送り込むかたちで棲み分けるようにしました。

開催した事例は引き続き記事化して、アウトドアウエディングという新しい文化がスタンダードになりつつあることを広めていきました。これは、前例主義に縛られる公園管理者へ企画提案する際にも役立ちます。

都心部にあり、多くの利用者で密集している人気公園は、広場の利用活性化よりリスクヘッジに意識が払われているため、どうしてもこういった新しいコンテンツは敬遠されがちです。たしかに、人がたくさん集まっているところでブンブン腕を振り回して踊れば誰かに当たってトラブルが起こるかもしれないと考えてします。しかし、都心から少し外れた西東京や埼玉、千葉の公園では、賑わいづくりに意欲的で、比較的H.O.Wに興味を持ってもらえました。事前に管理事務所の方と打ち合わせをすること、使用エリアをはっきりと決めること、当日運営の詳細な計画書を提出することで、許可をいただけることが増えていきました。

淡路島での引き出物マルシェ。地域の商品が複数のセットになって登場する(撮影:佐藤いつか)

イベントをメディア化することで、共感を広めていく

公園から許可を得られた際には、使用面積に応じて使用料を納めるよう努めました。この費用が園内の芝生の管理などに充てられているとしたら嬉しい循環となります。さらに、開催にあたっては会場の特色やその地域の資源を魅力的に伝えるよう心がけました。例えば、公園内でのアクティビティを取り入れたり、周辺エリアの文化を演出に盛り込んだり、公園周辺事業者から仕入れを行ったり、まちの人の参加を呼びかけました。少しでも会場や地域の人たちにとってプラスになることをアピールすることで、H.O.Wというコンテンツが受け入られやすくなると考えたのです。

具体的にひとつ挙げると「引き出物マルシェ」という催しがあります。これは、通常の引き出物に代えて、野菜から工芸、地元アーティストのCDまで、地域の産品や商品を集め、会場内にブースを作り、マルシェ形式で引き出物を選んでもらうという形式で行われます。受付に来たゲストに引換券を渡します。ブースには生産者や販売事業者自らが立ってくれることもあって、町外や県外から訪れるゲストとの交流にもなる新しいウエディングのスタイルだと思います。

小さければ30人、大きければ500人。平均人数が取りにくい私たちのアウトドアウエディングですが、一番多いのは、80~120人。これまで大手ブライダル会場の所在地である都市や中心地に向けて流れていた消費が、新郎新婦が選んだ地域に向けられることになります。それが、ブライダル事業者不在の小さなまちや過疎地、離島であることもあります。

参加者のうち町外や県外から集まる人は半数を超えることも多く、地域の魅力発信としても一役を担える形です。

ウェブサイト『Happy Public Wedding』では、公共空間での開催事例が所在地mapとともにアーカイブされている(提供:Happy Outdoor Wedding)

公共空間でのウエディングを広げる『Happy Public Wedding』

ウエディングができるまでの流れをざっと紹介すると、まずカップルがHappy Outdoor WeddingサイトのHOW TOページを見て想像を膨らませ、問い合わせてくれます。その後、H.O.Wのアウトドアウエディングプランナーと相談しながら開催場所やプランを決めます。H.O.Wは式とパーティーの企画サポートに加えて、必要に応じて物品の手配、カメラマンや料理家といったスペシャリストの手配、さらに当日の運営ヘルプのサポートなどを行ってきました(企画運営を一手に請け負うトータルサポートは2016年をもって一旦終了)。

ただ、これまでのH.O.Wは結婚式を挙げたいカップル向けのB to Cビジネスでしたが、現在は、ウエディングの受け入れ地となる公園を全国に増やしていくことに注力しています。各公園に窓口をつくり、申込みの手順や利用のルールを明確にし、本当の意味で、「誰でもアウトドアウエディングを開催できる」場所を全国に増やしていきたいのです。

 

大阪の淀川河川敷バージョンとして制作されたHappy Public Wedding Kit(提供:Happy Outdoor Wedding)

2017年、『Happy Outodoor Wedding』から派生した『Happy Public Wedding』というサービスを立ち上げました。新郎新婦に向けてハンドブックや会場で使えるブースやベンチがセットになったキットを用意しつつ、ウェブサイトでは公園を始めとする公共空間での開催事例をアーカイブし、行政や施設管理者には、地域リサーチやプラン提案、立ち上げサポート、運用サポートなどのサービスを提供しています。現在、実際にいくつかの公園に向けてサポートを行っており、今後、アウトドアウエディングの公式な受け入れ地が全国に増えていく計画です。

実は、H.O.W立ち上げ時からひそかに思っていることがあります。それは、「願わくは、アウトドアウエディングは流行らないで欲しい」ということ。いっときの流行で終わらずに、ゆっくりと、ハレの日のスタンダードとして各地に根付いて欲しいと思うのです。10年後、Happy Outdoor Weddingの光景が全国のあちこちで見られるように。

マップ

ライタープロフィール

柿原優紀(Yuuki Kakihara)

1982年生まれ、大阪・神戸育ち。英国Glasgow芸術大学を経て、京都精華大学芸術学部デザイン学科卒業。 出版社にて書籍や雑誌編集に携わり国内外の取材活動を行う。その後、渋谷区富ヶ谷にて編集事務所を設立。同時に「Happy Outdoor Wedding」を立ち上げ、D.I.Y.の力を地域空間や資源に結びつける結婚式の仕組みづくりを全国各地でおこなっている。tarakusa株式会社 代表取締役。

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