“池袋ローカル”な活動を考える「IKEBUKURO MEME」レポート

2023.6.8 齋藤結

桜が満開を迎えた2023年3月25日、「IKEBUKURO LOCAL TALK〜地域に根ざす文化のつくりかた〜」がRYOZAN PARK LOUNGEにて開催されました。今回のイベントは、2022年に行われたワークショップ「IKEBUKURO MEME」の試みを振り返りつつ、様々なバックグラウンドを持つ参加者とローカルな活動の意味やその可能性を考える機会となりました。制作アシスタントとして携わったEDIT LOCALインターンの齋藤結が、ワークショップ初回から報告会までをレポートします。

LOCAL MEME Projectsから新たなプロジェクトが始動

IKEBUKURO MEME」とは、東京・池袋を舞台に、まちでの暮らしを豊かにする「大人の部活」を構想する市民向けワークショップです。LOCAL MEME Projectsでは、地域の文化的遺伝子(=MEME)を未来へと引き継ぐために、これまでも日本各地でワークショップを開催してきました。今回は「週末起業」「多文化共生」「子育て」という3つのテーマのもと、池袋に関心を持つ約20名の参加者がサンシャインシティに集結。池袋周辺や地域活性化に精通した講師やローカルメンターをお招きし、レクチャーやグループワーク、フィールドワークを通じて新たなプロジェクトを生み出すという試みです。

レクチャーには、LOCAL MEME projectsの企画運営者である影山裕樹さん(千十一編集室代表)と、今回講師を務められる飯石藍さん飯石藍さん(公共R不動産メディア事業部マネージャー・株式会社nest取締役)、上杉洋二さん(日本政策金融公庫)をお招きしました。

影山さんからは「地域編集」をキーワードに、地域課題を解決する「異なるコミュニティをつなぐ」手法について、事例を交えてご説明いただきました。「トキワ荘」や「乙女ロード」「木造密集地帯」など池袋にまつわるキーワードが書かれたMEMEカードと、「展示会」「マルシェ」「お祭り」などのアイデアが書かれたPLANカードを組み合わせて、柔軟にプロジェクトを構想するためのワークショップも行われました。

飯石さんからは、池袋の地域で活動されているパイオニアとして、ご自身の経歴やこれまでの活動についてご紹介いただきました。池袋東口のグリーン大通りで開催されているIKEBUKURO LIVING LOOPの取り組みを通して、地域を変えていくにはまちを自分事として捉える「オーナーシップ」が原動力になる、と飯石さんは言います。あらゆる立場の人々に賛同してもらうためには、「まずは実験をして、風景や体験を共有することが重要である」というアドバイスは、プラン構想につながるヒントになりそうです。

上杉さんからは、事業計画書の書き方に関する講座を行なっていただきました。上杉さんはこれまで、国民生活事業の融資相談や審査業務を担当され、全国各地で中小企業支援、操業融資を通じた地域活性化支援に携わってこられています。2020年に池袋支店に異動され、池袋エリアで新たな活動を起こす人にとって心強い存在です。数々の事業計画書を見てきた上杉さんによると、ビジネスプランに重要なのは「やりたいこと、できること、必要とされること(ニーズ)」の融合点を探ることだそう。これらを押さえることで、現実的かつ筋道の立った事業計画が立てられるといいます。実際の事業計画書を用いたワークショップも行い、事業設計の根幹を学ぶことができました。

ローカルメンターの案内のもと、それぞれのグループテーマに応じたフィールドワークも行われました。まちを知るには、まず歩くことから。実際にまちへ出てみることで、池袋という地域を改めて見つめ直し、新たな視点を持ち帰ることができました。そこでの気づきなども共有しながら、各グループ毎に企画プレゼンをブラッシュアップしていきます。どのグループもすぐに打ち解けている様子で、お互いの意見に耳を傾けながらプランを練っている姿が印象的でした。

ついに迎えたワークショップ最終日の10月2日、公開プレゼンが開催

Aチームのプランは「体験!となりの池袋」。
様々な文化が密接しているという池袋エリアの特徴に焦点を当て、「池袋のまちの魅力を再発見し、異文化を気軽に体験できる場」を提供するイベントを提案しました。アニメカルチャーや演劇、公園、チャイナタウンなど、どれか一つの目的で池袋に来ていた人に、他のカルチャーにも興味を持ってもらうことで、池袋という街全体への愛着を生み出し、地域のイノベーションに欠かせない信頼を形成することが狙いです。「ガチ中華試食体験」や「コスプレまち歩き体験」「演劇づくり体験」など、子供から大人まで楽しめるイベントを構想しています。

Bチームのプランは「いけぶくろタタタ」。
「タタタ」とは、「多文化・多国籍・体験」の頭文字。多文化共生をテーマにしたこのチームでは、豊島区の外国籍区民が抱えている「日本人との交流機会の少なさ」という課題に注目し、国籍に関係なく企画・参加しやすいイベントを提案しました。初期は立ち上げメンバーがイベントの運営を行いますが、来年度以降は誰でも企画を持ち込めるようにする予定です。このチームの強みは、翻訳者や中国人のメンバーがいることや、メンバーが運営している場所があること。多言語での情報発信や低コストでのイベント開催が可能なので、より多くの人々にアプローチができると考えています。

Cチームのプランは「ヒガイケクリエイティブ学級」。
まずこのチームが着目したのは、池袋の「消費の街」というイメージ。一方で「高層/低層」や「都市/郊外」などの対照的な要素の融合にポテンシャルを見出し、「CREATIVE REMIX CULTURE」をキーワードとしました。これからの池袋を「創造の街」に変えるには、クリエイティブの力を用いて地域を盛り上げていく必要があるといいます。「ヒガイケクリエイティブ学級」とは、豊島区内の自営業者の方々と、クリエイターを繋げるきっかけをつくるイベントです。例えば、お店のSNS運営のコツや目の引くポスターの制作などを相談したい人と地域のクリエイターを繋げ、互いにwin-winな関係を築ける未来を描いています。

今回、全てのグループがイベント案だったこともあり、相互に乗り入れることでIKEBUKURO MEME内で協力し合える可能性も探っていけそうです。また、各方面でプロの道をゆく講師の方々が側にいらっしゃることも、これからの活動に向けて心強いのではないでしょうか。

(※各企画の内容は、発表当時のものです)

半年を振り返る「IKEBUKURO LOCAL TALK」

ワークショップ開催から半年後の2023年3月25日、「IKEBUKURO LOCAL TALK〜地域に根ざす文化のつくりかた〜」が開催されました。本イベントには、IKEBUKURO MEME参加者だけでなく、池袋を拠点にされている方、ローカルな活動に関心のある方など、多くの方にご来場いただきました。

第1部のグループディスカッションは自己紹介から始まり、「活動をマネタイズしていますか?」「本業・家庭とローカルな活動の関係は?」などのトークテーマが提供されました。アイスブレイクの場となるばかりか、話が盛り上がって時間が足りなくなるほど。参加者それぞれのローカルにまつわる話が伺えました。

続く第2部では、アリソン理恵さん(一級建築士事務所ara主宰、MIAMIA、I AM店主)、杉崎和久さん(法政大学法学部教授)、影山裕樹さん(千十一編集室代表、大正大学専任講師)にご登壇いただき、ゲストトークが開催されました。

アリソンさんは、豊島区・東長崎でカフェMIAMIAや壱番館などの運営を通じて、地域の場づくりに携わられています。街に若い人が働く場所がない、若い人の姿が見えにくいという気付きから、開かれたスペースとして事務所兼カルチュラル・キオスクを構え、東長崎の風景を少しずつ変化させてきました。ご自身の複数の活動を組み合わせることで、街の人々のコラボレーションのきっかけを作っているそうです。

杉崎さんは現在、法政大学で都市政策を専門に教鞭を執られておられます。学生時代からまちづくりに参加していたり、まちづくりの中間支援組織の勤務経験から、現場と政策の両方の視点をお持ちです。現在の趣味は、帰宅の途中で下車をして居酒屋巡りをすること。散歩をする中で「自分と街を、一対一で楽しむ」というお言葉が印象的でした。

影山さんからは、千十一編集室での活動やローカルメディアの様々な事例についてお話をいただきました。改めてLOCAL MEMEのご説明をしていただいたことで、IKEBUKURO MEMEに参加していない参加者にも、イベントの趣旨に関する理解が深まったのではないでしょうか。

また、IKEBUKURO MEMEから生まれた活動の進捗報告も行われました。「いけぶくろタタタ(多文化・多国籍・体験)」では、実際に2回のイベントを開催したことで、よりイベントを楽しむ工夫や新たなコラボの予定が生まれてきています。活動を振り返ってみて、「楽しそうなら、とりあえずやってみる」という気持ちを大切にしているとお話がありました。「いけぶくろクリエイティブ学級」(元・ヒガイケクリエイティブ学級)も、公開プレゼンから企画をブラッシュアップして第1回目となるワークショップイベントを開催しました。メンバーのやまもとさんは、池袋の街を知るために様々な場に赴き、そこでの人々との出会いから活動のヒントを得たそうです。どちらの活動も試行錯誤しながら、今後の方向性を見出しているようでした。

その後のトークセッションでは、「楽しく続けることの難しさ」「活動の丁度良いスピード感」「立場の違う人が話せる空間」など、様々なキーワードが挙げられました。ある程度の余白を残しつつ、ゆるやかに周囲を巻き込んでいくことは、地域で活動を続けていく中で重要なポイントです。IKEBUKURO MEMEから生まれた活動も、そのような形で継続・展開されていくことを期待しています。

○IKEBUKURO MEME
企画・主催 かみいけぶくろ探求と対話と木賃文化ネットワーク(ラボラトリ文鳥・かみいけ木賃文化ネットワーク・千十一編集室)、LOCAL MEME® Projects
運営協力 株式会社サンシャインシティ
公益財団法人トヨタ財団 2020年度国内助成プログラム「そだてる助成」助成事業
https://edit-local.jp/news/ikebukuro_meme/

○LOCAL MEME PROJECTS
https://localmeme.org/

マップ

ライタープロフィール

齋藤結(Yui Saito)

2000年生まれ。立教大学大学院社会学研究科在籍中。EDIT LOCALインターン2年目。アートプロジェクト制作の経験から、生活の中の表現/公共空間・空き家の活用などに関心を持つ。

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