全国の珍スポットを取り上げる『東京別視点ガイド』

”別視点”でまちを眺めるメディアがツアーまで行うわけ

2020.3.23 高岡謙太郎

東京別視点メンバー

珍スポットは、一風変わった観光施設や観光地のこと。風変わりな場所を散策することが趣味の方は実はかなり存在する。2011年4月から始まった珍スポットや珍イベントを紹介するメディア『東京別視点ガイド』代表の松澤茂信さんに話を聞いた。

東京別視点ガイド』はもともとは個人ブログだったが、現在は企画会社「別視点」として従業員を抱えるほどに成長。ブログ記事のみならず、珍スポット巡りをする「別視点バスツアー」や、さまざまなマニアが集まり自主制作グッズを販売する「マニアフェスタ」を企画運営するまで仕事の幅を広げている。

代表の松澤茂信さんに、人形町にあるタオル問屋を改装した3階建の事務所兼バーでお話を伺った。珍スポットへ人生を掛けるほどの思いを持ちながら、とても物腰の柔らかい方だった。

東京別視点ガイドHP

リサーチのために始めたブログからスタート

もともと『東京別視点ガイド』を始めたきっかけは、10年以上前に友達と3人でイベントを行う喫茶店を経営していたことに遡る。松澤さんは閉店した後にまた変わったお店をやりたいと思い立ち、今日本中にどんな変なお店があるのかのリサーチを始めた。休日になると、珍スポットと呼ばれてるお店を巡るようになり、それをブログでレポートし始めたのが、このメディアの発端だという。

しかし、いろいろな場所を巡った結果、松澤さんが面白いと思った場所は、50から60歳くらいのおじさんやおばさんが経営している店だった。それもあって自分が店をやるよりは面白いお店の生態を突き詰めたいと思うようになり、紹介者側に回った。

ブログの転機となったのは、運営から半年後。ライブドアブログで賞金が出るブログ大賞「ライブドアブログ奨学金」に選ばれて、120万円の賞金を貰ったこと。その頃、松澤さんは派遣社員として働いていたので、喫茶店を経営していた時の借金が減ったり生活費に回せたり、そして書く方に集中できるようになったのは大きな転機だった。

そこから生活にも変化が訪れるように。記事をたくさん書けるようになり、ブログから広告収入も得られて収益が多少出るようになった。そのタイミングで実家に戻ったのもあって、なんとかブログだけで生活できるまでに。ブログライターとして再スタートすると同時に、日本中の珍スポットを巡る生活を2ヶ月半も挑戦した。珍スポットをひたすら巡る毎日のなかで、夜はマクドナルドで記事を書いて、寝る時は漫画喫茶という生活をして、おかげで珍スポットについてかなり詳しくなれたという。ある意味修行だ。

伊豆のまぼろし博覧会

「もともと『東京別視点ガイド』というタイトルにしたのも、当時は派遣社員で遠出はできなかったから、取材する地域を『東京』に縛っていたからです。地方に行っても、せいぜい週末のみで詳しくなれないと思ったので、あえて東京の珍スポットに関して一番詳しくなろうと。だから、ある程度東京は回れたので、今度は日本中に手を伸ばそうという気持ちでした。日本一周を終えてぐらいから反響が増えてきて、観光系や面白系のサイトから珍スポットの記事の依頼が来るようになりました」(松澤さん)

日本中の珍スポットを周ってみて

松澤さん

数多くの記事を書いた経験を踏まえた、珍スポットのローカリティについても伺ってみた。

「郊外や地方は大きな珍スポットが多いんですよね。博物館や倉庫がまるごととか。東京だと家賃が高いので、小さかったり飲食店で何か変わったサービスをしているところが多いですね。珍スポットが多い地域でいうと、やはり伊豆は多いです。また、青森などの半島の先っぽは珍スポットがなぜか多いんですよ」(松澤さん)

珍スポットはバブル期に観光客が大量に来た勢いで作って、なんとなくそのまま継続しているパターンが多いそうだ。

「温泉街の近くも多いです。群馬の伊香保温泉の近くにある珍宝館は、ちん子さんというおばちゃんが大人向けの展示品を漫談みたいな感じで解説する。大人向けの秘宝館が、温泉の近くにはけっこうあります。そういうところの館主はだいたいシモネタ漫談が好きですね(笑)。でも、全盛期から何十年か経っているので潰れたケースも多い。2015年に書籍(『死ぬまでに東京でやりたい50のこと』)を出しましたが、そこに載せている珍スポットの4分の1はもうないんじゃないかな」(松澤さん)

『死ぬまでに東京でやりたい50のこと』(青月社)

珍スポット記事執筆のコツ

こういった珍スポットを見つけてくるのは、松澤さんの根気もあってのこと。

「最初は片っ端からガイド本を買って、気になるところを全部見て行きました。本の中でチラッと2、3行でしか説明されていない場所でも、実際行くと面白かったりするんです。そういったところを片っ端からGoogleマップにピンを打っていて、今僕の地図はピンだらけです。最近では、読者から『怖いから行ってほしい』という連絡もあります。ただ、プライベートな場所だったり、汚すぎたり、犯罪の行われる場所だったりして記事化はなかなか難しい。珍スポットを回りすぎて彼女にフラれた経験もあります(笑)」(松澤さん)

人気のメディアとして、長く運営するにはコツが必要。松澤さんの中での掲載の基準がある。

「実際に足を運んで普通だと思った場所や、あまり好きじゃない場所は記事化しません。多少コメディタッチで書いてますが、笑いつつもリスペクトできない場所は書かないですね」(松澤さん)

珍スポットには歴史があり、先人の研究もある。影響を受けた本を教えてもらった。

「書き始めてからいろいろな方の本を読みましたが、一番好きなガイド本でいうと堀井憲一郎さんの『東京ディズニーランド徹底研究』ですね。『何月何日はどれぐらい人が並んで』など実際に足を使って検証しまくる本が好きです。ディズニーランドのような王道の場所でも、これだけ足使って調べ倒すと、こんなに面白いんだと感銘を受けました。あと、赤瀬川原平さんの『超芸術トマソン』は最初読んだ時に衝撃でした」(松澤さん)

タイ別視点ツアーで地獄寺にて

ツアー事業をはじめる

「東京別視点ガイド」は4年前から法人化。そこからツアー事業もスタートし、執筆以外にも力を入れていくことになる。ツアーの内容は、記事で紹介している珍スポットをバスツアーで巡るもの。最初は2泊3日で青森の10箇所以上を周り、キリストの墓などの有名な場所を巡った。

最近ではサイトの閲覧者が増えたからか、ツアーの募集をすると日帰りで大型バス1台埋まる40名ぐらいの人数が平均で集まる。なかでも人気だったのは、台湾ツアー。2泊3日で台湾の珍スポット巡るツアーで、増便するほど。今年は初のタイツアーも増便。やはり海外の珍スポットには行きづらいのもあって人気だという。近年では、青森の辺鄙なところ行くよりは、アジアに行ったほうが交通費が安いから人気だとのこと。

松澤さんがプロデュースするツアーには、マニアの人が現地をガイドするシリーズもある。道に落ちている手袋の写真を撮り続けてる石井公二さんによる、街を散策して手袋を見つけるツアーも人気。1回のツアーで7個見つけたそう。クーラーの室外機の上など街の中で落ちている場所は限られていて、そこを注意しながら歩くと見つけられるという。他には、植木鉢マニアの方のツアーも行う。なかなか思いつかない発想だ。

マニアフェスタ

マニアが集まる場もプロデュース

「マニアフェスタ」プロモーションムービー

ツアーの他には、そんなさまざまマニアが物販をする「マニアフェスタ」も主催。100組近くマニアを集めて、2000人近く来場するほどの規模に。最初は過去に取材したマニアに声掛けをして始めて、回を重ねて公募を開始するといろいろなジャンルの方々が参加してくれるようになった。

存在しない地図を描く「地理人」さん

他には、企業研修的なツアーのプロデュースもする。先程の片手袋の石井さんと、存在しない街の地図を描く地理人さんと、松澤さんがガイド役で、高崎や川越をそれぞれの視点で語りながらガイドするというもの。

自治体の仕事もある。茨城に悪態祭りという、天狗役のおじさん達と一緒に山頂まで歩きながらお客さんが悪態を吐きまくる変わった祭りがあり、それを見に行くツアーを町おこしの一環として企画した。

タイ別視点ツアーのドラゴン寺にて

現在は事務所を借りて、社員3人を雇うまでに成長した。事務所の1階はバーとして改装。マニアフェスタに出てくれてた方々が1日店長としてお客さんとお酒飲んたり、小規模なトークライブが行われている。事務所自体が珍スポットのようで、松澤さんならではの場所ができたように思えた。最後に珍スポットの魅力について聞いてみた。

「いろいろな珍スポットを見ていくうちに、オーナーの生き様に興味を持つようになりました。売り上げを上げようとか、世の中の人からよく見られようとしてない人のお店が好きですね。実は最近は食べ物系の記事が人気なんですが、アクセス数が稼げなくてもこれまでのように珍スポットの紹介をしていきたい。思い入れと数字が比例しないのは悩みどころですけれど(笑)」(松澤さん)

マップ

○ウェブマガジン『東京別視点ガイド
マニアフェスタ

プロフィール

合同会社別視点

2011年4月個人ブログからスタートした珍スポットや珍イベントを紹介するメディア「東京別視点ガイド」。現在は事業を多角化し「別視点バスツアー」や、さまざまなマニアが集まり自主制作グッズを販売する「マニアフェスタ」を企画運営する企画会社「別視点」に。
HP

ライタープロフィール

高岡謙太郎(Kentaro Takaoka)

ライター、編集、広報など。主にテクノロジーを用いた表現に興味関心があり紹介をしてきた。共編著に『Designing Tumblr』『ダブステップ・ディスクガイド』『ピクセル百景 現代ピクセルアートの世界』など。日本科学未来館展示課に勤務後、フリーランス。

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