2019年3月、EDIT LOCALの新サービス「EDIT LOCAL LABORATOLY」が発足しました。全国各地に会員がいるEDIT LOCAL LABORATORY(以下、LABORATORY)は今後、どのように展開していくのでしょうか。2019年6月15日に行ったキックオフイベントでは、LABORATORYでテーマに特化したラボ(部活)を運営しているラボリーダー2名とゲストをお呼びし、株式会社meguriが入居する三河島の長屋を会場に、これからのメディア、コミュニティ運営のあり方について考えました。
地域の取り組みを紹介するEDIT LOCAL、その先の”オンラインコミュニティ”
第一部ではまず、LABORATORY構想を立ち上げた影山裕樹さんと、共同プロデューサーの江口晋太朗さんが、LABORATORYを作った理由について語りました。
編集者として活動する影山さんは、著書『ローカルメディアのつくりかた』を執筆した際、全国各地のローカルメディアに関わる方に出会いました。そして、本では紹介しきれない様々なメディア、編集者が各地に存在することを知り、ウェブマガジンEDIT LOCALを立ち上げる必要性を感じました。
「いろんな地域に足を運び、実際に現場で活動している人の話を聞いていると、東京中心のマスメディアには載らない面白い話やすごく工夫している話とか、日々いろんな情報が入ってくるわけです。でもそれらをすべてEDIT LOCALで取り上げることはできない。単に漫然と発信するだけではなく、地域で活動されている方と生きた知見を相互に交換し合ったり、そこから新しい動きを生み出すためにはメディアのあり方を変えないといけない。そこで会員制という仕組みを導入したいと考えたんです」(影山さん)
影山さんがLABORATORYを立ち上げる際に相談した江口晋太朗さんは、自身の会社TOKYObetaで企業とタッグを組んだ企画や立体的な編集、プロデュースを手掛けています。また、江口さんは、共著書『日本のシビックエコノミー』で、地域の中における持続可能なあり方や、小さな経済圏を取り上げ、関心を寄せています。
「ローカルメディアと地域の経済圏の共通項は、そこにいる“人と人のつながり”だと思うんです。LABORATORYは、テーマに沿って、普段は出会うことのない離れた地域の“人どうし”が集まる。他の地域の成功例をそのまま転用するのではなく、互いにアイデアをブラッシュアップすることで、半島だとか木賃だとか、それまでつながらなかった地域をつなぎ、ある種、中央集権的な既存の業界に提言することも可能になるかもしれない」(江口さん)
地域ごとにつながるだけではなく、様々な地域をつなげる共通のテーマで結びつく、ラボという部活をいくつもかかえるのがLABORATORYの特徴です。
地域メディアの研究者と実践者をつなぐ。「地域メディアラボ」牛山佳菜代さん
たとえば、地域発信のメディアに特化したメディアを研究するNPO法人地域メディア研究所の理事を務める牛山佳菜代さんは、LABORATORYで「地域メディアラボ」のリーダーを務めています。
牛山さんは大学卒業後ケーブルテレビ局へ就職し、地域とメディアの親和性に惹かれたことがきっかけで大学院での研究の道を選びます。そして、地域メディアを継続して研究できる団体を作るためにNPO法人地域メディア研究所を結成しました。そこではローカルメディアに関連した様々なテーマから、地域とメディアのあり方について研究しています。
「たとえば、私たちのNPOには、50年前から岐阜県のとある村を定点観測して、その村に電話やインターネットが導入される度に、地域住人の方々のコミュニケーションの仕方がどのように変わってきたかをフィールドワークを通して研究してきたデータの蓄積があります」(牛山さん)
郡上村(仮称)と名付けられたその山間の地域で、50年前にNPOの代表理事で地域メディア研究の第一人者である田村紀雄さんが始めたこの研究は、現在「電気通信メディアの進化と農山村の生活史調査」と称してNPOの若手研究者がバトンを受け継ぎ続けられてきています。こうしたアカデミックな研究の知見が、現場で日々活動するメディアづくりの実践者に届けられることも、LABORATORYの特徴の一つです。
半島同士を繋げ、にぎわいを生み出す。「半島ラボ」奈良織恵さん
一方、「半島ラボ」のラボリーダー、奈良織恵さんは株式会社ココロマチで、地方と都市をつなぐ・つたえるメディア「ココロココ」を運営されています。全国各地域に取材に行くうちに、海も山もある半島の魅力に取り憑かれたといいます。
「半島って英語ではPeninsulaと言うんですが、peneって『のようなもの』という意味で、そこに島を意味するinsulaがついている。つまり、『島っぽいもの』なんです。しかも、Wikipediaで日本の半島を調べると54あって、ナビタイムで調べたら61、地名コレクションっていうサイトで調べると246ある。リアス式のボコボコ一つも、紀伊半島も同じ半島。定義がないからこそPRのし甲斐があって面白いんじゃないか。そこで、個人的に半島くらし学会という有志の集まりを立ち上げたところ、影山さんから声をかけていただき、半島ラボとコラボしようという話になりました」(奈良さん)
海上交通の要所でもある半島はかつて文化や経済の先進地で、半島同士の交流も盛んでした。現在は陸上交通が主に変わってしまい、さらに過疎化と高齢化の課題を抱えている。でも、昔と変わらず海と里山が共存し、美しい景観があるのが半島の特徴だそうです。
「だからいろんな半島の事例を集めて半島らしさを整理して分析していくのって面白い。そこをつきつめていくのが半島暮らし学会。また、半島ラボに関しては、半島と食とか、半島とアートなどLABORATORYならではのネットワークを活かして盛り上げていきたいですね」(奈良さん)
半島暮らし学会のメンバーは半島在住者が多いそう。オンラインで会議をしてそのまま飲み会をして、半島名が書かれているピンを引く半島ダーツの旅をすることも。奈良さんも実際に半島ダーツの旅で、岩手県の重茂半島に一人で行ったそうです。
同心円状の共感を生み出し、コミュニティを広げる。キリンホールディングス平山高敏さん
第二部ではゲストの平山高敏さんに、キリンホールディングスで実践されているnoteを使った新しい共感型マーケティングについてお話していただきました。
広告代理店、昭文社「ことりっぷweb」のプロデューサーを経て現在キリンでデジタルマーケティングを担当されている平山さんは、ことりっぷwebで実践されていた事例をもとに、「同心円状のコミュニティ」を作ることこそがこれからの企業マーケティングの基本になると語りました。
「まず同心円状の中心にコアとなる企業のメッセージを置いて、そのメッセージに共鳴するローカルメディアとパートナシップを結び一緒に活動します。そして活動に共感して一緒に盛り上げてくれるユーザーをサポーターとして発掘し、彼らと一緒に新しいものを作っていく。そしてこれを繰り返す、というシンプルな方法をことりっぷでは実践していました」(平山さん)
これまでのように、メディアとユーザーという単純な構図ではなく、企業のコアメッセージを中心に同心円状に広がるコミュニティを意識することで、ライトなユーザー、コアなユーザーそれぞれの事情にあった施策が可能になると平山さんは語ります。
「ことりっぷでの経験から、共感から生まれる同心円状の広がりを新しいマーケティングとして取り入れています。こういった手法はローカルメディアの運営にはマッチすると思っています」(平山さん)
ことりっぷでは、同心円状の中心に近い人々、つまりユーザーでもありインフルエンサーであるパートナーメディアの運営者たちと情報交換をするFacebookグループを運営していました。一方、キリンでは「note」というプラットフォームを使って、ライトなユーザーからコアなファンまでゆるやかにつながる取り組みを行なっています。
「Twitterは”Look at This ”、Instagramは”Look at Me”で、noteは”Look at S(StoryとStyle)”なんだと思っています。ユーザーが商品の購入体験を個人のストーリーで語り出すことによって、裾野を広げることにつながるのではないかと考えたんです。ウェブメディアも、ただ記事を作る=読むのではなく、“参加する”という感覚の、同心円状のコアに近いユーザーが不可欠です。影山さんたちがLABORATORYを立ち上げたのも、僕と近い問題意識があるからだなと感じました」(平山さん)
コミュニティを育むために必要な時間とリアルな交流
平山さんが語ったように、これからの企業やメディアは単に情報発信をするだけではなく、コミュニティを育てていく感覚が大切。コンセプト(メッセージ)に共感するコミュニティ(サポーター、ファン)を広げていくための方法について議論が交わされました。
「ゼミやNPOで活動をしていると、どうしてもコミュニティがクローズドになってしまうんです。どうしたら私たちの活動をもっと外に広げていけるのか、課題に感じています。そういう意味で私たちのような研究者がLABORATORYに参加する意義は大きいと思います」(牛山さん)
「企業のコンセプトを伝えるのにTwitterは短いしInstagramは写真だし、Facebookでは興味のある人にしか届かないんですよね。だから、平山さんがキリンでnoteを活用している事例を見て参考にしたいと思いました。あと、半島×○○みたいにテーマを設けて縦軸と横軸を合わせるところから興味を持ってもらうこともできるのではないかと思います」(奈良さん)
SNSは確かに、企業やメディアのコンセプトを拡散し、より多くの人に伝えるためには重要なツールです。ただ、やはりネット上では人と人の信頼関係を醸成するのは難しい。EDIT LOCAL LABORATORYは、全国各地でそれぞれの地域性や状況に応じて、自らメディアを立ち上げたり、事業者の会員が多く参加したりしています。そうした人的資源をいかにつないで活動を生み出すか。江口さんはこう語ります。
「一方で、企業やEDIT LOCALのようなウェブメディアがコミュニティを育むには、ある程度の時間とリアルな交流が大切だと思います。たとえば旅行でも、一度行くだけでなく、何度も通うことで関係性が生まれてくるじゃないですか。遠く離れた会員同士がテーマを軸に何度も会い、交流を深めることで少しずつコミュニティが育っていく面もあると思います」(江口さん)
LABORATORYの会員は、今年春にスタートして現在66名(7月末時点)。東京が半数で、それ以外は東北から九州まで幅広く散らばっています。編集者やプランナー、ディレクターやライターなど、クリエイティブ業の実務者が多いのが現在の特徴です。ローカルメディアに関する著書を持ち、講演やワークショップで各地に通う影山さんは、こうした地域の実践者のノウハウを共有することの必要性を感じていました。
「ローカルメディア関連のイベントやワークショップを開催すると、本当に遠いところからわざわざやってきてくれるんです。クリエイティブの仕事って、地方にはまだまだ少ないから、地元で仲間を作るのが難しいんだと思います。でも、イベントで出会って名刺交換したところで友達にはなれません。やはり、何度も会って、一緒にプロジェクトを行って初めて仲間になる。ですから単にクローズドのグループでやりとりするだけでなく、リアルにたくさんのプロジェクトを走らせ各地の会員が交流していく、そのためのプラットフォームが必要だと感じLABORATORYを立ち上げました」(影山さん)
地域には、職業のバリエーションが少なく、文化(娯楽)のバリエーションも少ない。だから若者が流出していく。大事なのは、若者が従事しやすいクリエイティブの仕事を増やし、地元の愛着を持てるような情報発信を行い、まだまだ地域に少ないクリエイティブの仕事を増やしていくことはないでしょうか。
それは、実践者の言葉を紹介してきたEDIT LOCALが目指していることの1つです。そのためには、同じ地域に住んでいる人だけでなく、テーマを軸に様々な地域の人たちがつながり発信者になるプラットフォームが必要です。LABORATORYは、距離が離れた人々をつなぎ、地域で様々なプロジェクトを共創していくためのエンジンになりたいと考えています。ぜひとも、ご興味ある方のご入会をお待ちしております。
○アートプロジェクトラボ、クラウドファンディング実施中! 9月末まで
現在、LABORATORYの「アートプロジェクトラボ」にて、クラウドファンディング×出版のプロジェクトが進行中。全国各地に広がるアートプロジェクトの10年を振り返る本をLABORATORYメンバーを中心に編集します。ご興味ある方はぜひご入会の上、アートプロジェクトラボにご参加ください。LABORATORYメンバー以外でも、「編集に参加する!」のリターンを選んでいただいた方は編集会議に参加することができます。
○EDIT LOCAL LABORATORYとは?
EDIT LOCAL LABORATORYは、会員制のオンラインコミュニティです。年会費8,000円で動画コンテンツ無料視聴など様々な特典が受けられたり、EDIT LOCALに記事を寄稿できたり、ラボ(部活)を立ち上げ全国の会員とオンライン&オフラインで交流することができます。
https://edit-local.jp/labo/
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