クラウドファンディングで集める出版資金と参加者〜準備・実施プロセスと気づき〜

2019.12.30 橋本誠

7月1日〜9月31日の3ヶ月間、EDIT LOCAL LABORATORY アートプロジェクトラボによるクラウドファンディング「日本各地で行われているアートプロジェクトの10年の動きを伝える」を行いました。国内各地でプロセス公開・参加型のリサーチ・取材を行って制作した本を2021年に出版するという内容です。

MOTION GALLERYのプロジェクトページ
https://motion-gallery.net/projects/editlocal_artbook/

3月のラボ立ち上げと共に準備をはじめ、プラットフォーム「MOTION GALLERY」やSNS上でのアピールにとどまらず、様々なイベントも行うなどしながら取り組んだ本プロジェクトについて、準備・実施プロセスと得られた気づきをお伝えします。

・構想から立ち上げまで

プロジェクトページでも構想や思いについてはご紹介していますが、私はこの10年ほどの間、特に各地で行われている芸術祭やアートプロジェクトに関わってきました。その中で、この分野の全般的な状況や多様性、社会的な価値を一般の方にもわかりやすく伝える本がほとんど無い点を課題に感じ、何らかの形で出版プロジェクトができないかということについては1〜2年ほど前から考えていました。

実際に具体的な準備をはじめたのは5月に入ってからなので約1ヶ月前からですが、それまでにもことあるごとに業界内外の知人と話して方向性を模索したり、市場調査的なことを行ったり、機をうかがったりしていましたので、準備には1〜2年かけたということもできます。

最終的にクラウドファンディング(クラファン)を活用してでもやりたい。やりきる!と思えたのは以下の条件、経験がそろったことが大きかったかなと思います。

-2018年度から公私とも落ち着いている状況で、時間が使いやすかった
-2018年に西日本豪雨災害の復興支援の現場に関わる体験などを通して、寄付などによる支援をする/うけるという行為に対する自分なりの考えが整理された
-これまでにも大きな影響を受けてきた大分のBEPPU PROJECTを2月に訪れ新たなチャレンジについても知り、思いが強くなった
-EDIT LOCAL LABORATORYが立ち上がり、連携することで分野外や他地域の編集・ライターとも協働しやすいと思えた

アートプロジェクトラボのミッションを「他者との対話からアートプロジェクトの価値を見い出す」として、それを言わば「公共財化する」のがクラファンによる出版プロジェクトだと整理しました。

アートプロジェクトラボのコラムページ
https://edit-local.jp/column/artproject/

・プラットフォームの決定と入稿素材の準備

クラファン中にも芸術祭・アートプロジェクトの現場で取材やプロモーション活動を行いたいと考えていたため、シーズンとなる7月までに立ち上げることを決め、プラットフォームを検討します。

私自身もこれまでにクラファンを通して、アートプロジェクトを含むいくつかのプロジェクトを支援してきました。準備をはじめてからより意識して利用するようにしてみましたが、まずシンプルに、自分が最も多く利用しているのがMOTION GALLERYでした。参加しているアートプロジェクトが多いので、それだけ興味の近い人への広がりが期待できるのではないかと考えました。

ちょうど先行して2回目となるクラファンを実施中だった釜ヶ崎芸術大学のプロモーションや、日々の活動報告の様子も、支援者の立場で参考にさせていただくことができました。

また、EDIT LOCALの運営メンバーを介してMOTION GALLERYの大高健志さんに直接打ち合せの機会をいただけたり、彼がキュレーターのひとりを務めるさいたま国際芸術祭において、メンバーの影山がCIRCURATION SAITAMAで参加予定だったというつながりもありました。

クラファンのプラットフォームにより、手数料のパーセンテージやサポート体制も異なります。細かく比較して見ていくとわかるのですが、他にも実施期間の設定の有無や、目標達成や未達時の条件変更などがそれぞれに異なります。自らのプロジェクトの想定にうまく合うかどうかも、見極めにあたりはずせない視点だと気づきました。

打ち合わせ後、いよいよリターン内容を検討しながらの入稿素材準備です。これから取り組むプロジェクトですので、取材予定のプロジェクトに画像提供のお願いをしたり、テキストの推敲を重ねてチームメンバーやMOTION GALLERYに確認いただいてブラッシュアップを重ねました。特にタイトルの見せ方や、リターンの内容、その説明にもイラストでもいいのでイメージを加えた方がいい、などといった点はMOTION GALLERYからのフィードバックを参考にさせていただきました。

リターンについては、出版そのものが目的であるため、別の関連品などを準備したり、高額プランをつくるのが難しい点が苦労しました。3,000円以下のプランを思い切って無しにして全ての支援者に本を届けることにした点、プロジェクトの「編集」「リサーチ・取材」という肝の部分をひらいて1〜2万円で参加型としたこと(クラファンの類似例が人気を集めたと聞いて設定)、そこにも連動可能で経費があまりかからない「おすすめ情報メール」を5,000円コースとしておいたことが、振り返ってみると効果的でした(平均6,000円程度の支援を集めることができました)。

・広く知っていただく、スタートから1ヶ月

開始ぎりぎりまで準備をして、7月1日についにスタート。知人や関連団体への根回しは直前に最低限しかできませんでしたが、最初の1〜2週間はとにかく自身や公式のSNSアカウントなどを駆使して、身のまわりの方にとにかく広く知ってもらうことを目ざしました。プロジェクトの補足説明、リターンの説明、取材報告などちょっとしたことでもいいのでできるだけ2,3日に1本は記事をアップしたり、日々変わる最新の支援状況をネタにして、オンライン上で情報周知を心がけました。

QRコードをつけたチラシもごく簡単なものを急遽用意して各地の芸術祭・アートプロジェクト関係スペースへ配布したほか、できるだけ持ち歩き、関係者が登壇するイベントなどで配布しました。

プロジェクトの管理画面では、最新の状況が分かりやすくグラフ化されたものを見ることができます。目標に到達するための平均値とも比較することができるのですが、最初の1ヶ月はその半分程度のペースで推移していたので、実は8/20頃にやっと50%を越える頃まではかなりひやひやしていました。

・イベントや取材活動の実施と記事化

3ヶ月の間には直接・間接の広報活動はもちろん、様々な企画者やスペースの協力もあおぎながら、関連するトークイベントや興味を持っていただけそうな方に会える場づくり、取材や活動の報告記事づくりに力を入れました。

クラウドファンディングに取り組んだことのあるアーティスト・滝沢達史さんとのトーク企画、あいちトリエンナーレのディレクター・津田大介さんも参加したイベントレポート、ラボのメンバーとともに取材・リサーチにまわった瀬戸内国際芸術祭やReborn-Art Festivalのレポートなど、計24本の取材・活動報告記事を公開しています。

知人はもちろん、私たちのことを直接知らない方にリアルな場でも丁寧に言葉を届け、最新のアートプロジェクトの現場で見聞きしたことはインターネットを通して広く届ける。すぐには反応が無くても、そのような活動の積み重ねが、3ヶ月の時間をかけて最終的には必ず支援の背中を押してくれるはず。MOTION GALLERYからのアドバイスもあり、そのように考えて取り組んでいました。

ペースは落ちていますが、クラファンが終わってからもこの報告記事づくりは継続していきます。記事はnote上にも転載し、そこからの広がりもねらいました。

・コツコツとできることに取り組む、中盤の1ヶ月

先にご紹介した管理画面にあるように、3ヶ月に渡るクラファンの中盤1ヶ月は支援が伸び悩むことがほとんどだと言われています。この期間は「支援のお願い」を広くうたうというよりは、個別に知人に連絡をしたり、記事の更新やイベントの企画・告知をしたりということに時間を使いました。

結果、サイトへのアクセス数や支援のスピード感はスタートから1ヶ月間と大きく変わらず、終盤を盛り上げることができれば何とか目標額に達するのではないかという光明が差してきました。

・一気に盛り上げるラスト1ヶ月

9月の前半までは引き続き同じペースで推移するなか、最後の2週間を一気に盛り上げて、できればネクストゴール展開をするために、応援コメント記事の作成、これまでに掲載した記事の再拡散、「シェア」のお願いをしました。

応援コメントは、既に直接・間接に応援コメントをくださっていて、影響力があると思われた
上田假奈代さん、及川卓也さん、芹沢高志さん、藤田直哉さんをメインとして、プロジェクトページのコメント欄に寄せられた内容も一部抜粋させていただきました。

記事を掲載したのが9/16で、「シェア」のお願いも同時に行っていたからか、この日から1週間は最後の1週間と同じくらい支援やサイトへのアクセスがのびました。そうなるとMOTION GALLERYのトップページ上でも注目が高まる位置に掲載されるので、そちらからの流入もかなりあったようです。

そして9/21に最初の目標額を達成。500部の増刷と取材経費の増加、出版記念イベントの実施を掲げ、リターンも追加してストレッチゴールを180万円に設定し、最終的に299人の方から、191万584円の支援をいただくことができました。

・活動を終えて

身のまわりでクラファンをしている人もかなり増えてきましたので、分かったような気にはなっていましたが、やはり実際にやってみるといろいろなことが見えてきました。

まず、プラットフォーム自体も増えていますが、掲載プロジェクトも多様化してきています。一世一代の思いで取り組まれているものもあれば、シンプルに新たな販促の場という感覚程度で利用されているように見えるものもあります。こうなると今後ますます、プロジェクトを掲載する側も情報の伝え方に工夫が必要になってくるでしょうし、見る側にも見きわめが必要になってきます。

私としては、自分たちもできることをできるやり方でやるだけだし、応援してくれる側も、無理をしてもらう必要がなくて、できる人ができる応援をしてくれるだけで十分前に進める、という気持ちで取り組んでいました(前述した復興支援の現場で府に落ちた考え方です)。

またインターネット上での広がりも期待できますが、オフラインでの広がりや情報の強度もやはり重要だったと思います。特に、文化芸術の社会的価値というよりは、本質的な価値を重視する人の多い業界の方々の中には、どのようなスタンスで、どのようなことをやろうとしているのかを直接説明させていただく方が、やはり理解が早かったです。

一方で、必ずしもふだんから文化芸術活動をしているわけではないが、興味がある、知りたいという方々からはオン/オフライン問わず非常に活発な反応をいただきました。参加型のリターンを選んでくださった方も多いです。こうなると、時期はかなり先になりますが実際に本ができあがってからの反応が楽しみです。

クラファンは、単なるファンドレイジングのためのツールではなく、リターンなどを通して新たな参加や協働をうながすプラットフォームとしての性質をもつということも改めて感じました。同時期にクラファンにチャレンジしていた釜ヶ崎芸術大学、大丸東京、市原えつこさん、五十嵐靖晃さんらが手がけるアートプロジェクトのリターンには、具体的に作品に関わるメニューが用意されていたことからも、その相性の良さを感じることができます。

アートプロジェクトのムーブメントを担うのはクラウドファンディングであるー。いつの日か、そんな時代がやってくるのかも知れません。

マップ

ライタープロフィール

橋本誠(Makoto Hashimoto)

現代社会と芸術文化をつなぐ企画・編集者。東京文化発信プロジェクト室(現・アーツカウンシル東京)を経て、一般社団法人ノマドプロダクションを設立(2014)。NPO法人アーツセンターあきた プログラム・ディレクターとして秋田市文化創造館の立ち上げに携わる(2020〜2021)。編著書に『危機の時代を生き延びるアートプロジェクト』(千十一編集室)。多様化する芸術文化活動・アートプロジェクトに関わる企画制作や記録・編集・アーカイブ、人材育成に関わるプログラム、調査・コンサルティングなどを手がけているhttp://nomadpro.jp

記事の一覧を見る

関連記事

コラム一覧へ