都会と土着が同居する京都で広報・PRを考える

2020.1.17 影山裕樹

久しぶりの投稿になります。千十一編集室の影山です。
昨年、京都におけるウェブ制作・編集チームとして破竹の勢いで活躍するバンクトゥ、長年一緒に仕事をしてきたアートディレクター加藤賢策さん率いるラボラトリーズ、アーティストの増本泰斗さんという異色の組み合わせで、「京都四〇四」というクリエイティブスペースを立ち上げました。詳しくはこちらのウェブサイトを参照のこと。

京都四〇四立ち上げのきっかけになったのは、EDIT LOCALでも取り上げた「CIRCULATION KYOTO」というワークショップ。これは、まさにオーバーツーリズムであえぐ京都にあって、見過ごされてきた洛外に目を向けて、洛外にある5つのエリアで5つのローカルメディアを立ち上げるという壮大な(汗)プロジェクトでした。

CIRCULATION KYOTOは複数のディレクター制度で運営していて、そのディレクターの一人が加藤さんでした。他にも、リサーチディレクターとして関わってくれた榊原充大さんが紹介してくれた、国立奈良文化材研究所の恵谷浩子さんが提示してくれた京都の見立てが秀逸で、基本的には中心部=洛中と郊外=洛外の対比を、「洛中とそれ以外(日本各地)をつなぐ中継地としての洛外の役割」に読み替えて、フィルターとして位置する洛外の地域性にフォーカスしながらワークショップを進めてきました。

京都には京都に詳しい人がいっぱいいるので、語るとボロがでるのでこれくらいにしますが、「フィルターとしてのエッジ」=洛外は、果たしてとるに足らない「郊外」に過ぎないのか。都に商品を届ける際に洛外にある地域ではそれぞれ、山や遠い海から採れた一次産品を「加工」したり、あるいは都から商品や廃棄物を京都外に送る役割を果たしてた、という話。

(c) Hiroko Edani, Mitsuhiro Sakakibara

都市に隣接する郊外の価値

また、もう一個、CIRCULATION KYOTOで京都について考え続ける中で、これはワークショップでは取り入れられなかった視点なんだけど、めっちゃあるな、と思う見立てが製造業の存在。こちらのJETROのレポートを見るとなるほどなっていう気分になります。

一般的な感覚として、小骨が多くて食べづらいハモの刺身が美味しかったり、鯖街道を通って保存の効く鯖鮨が名物だったり、海のない京都では海産物を美味く召し上がる文化があったりして、結局は都のちょっと外側に、そういったモノを加工する文化があったのではないか。だから洛外に位置する地域には伝統的なモノづくりの産業が根付いていて、そうした伝統産業がグローバル企業に成長して、京都の経済を支えている、というレポートです。

たとえば任天堂だったり、京セラだったり。京都、いや日本を支えるグローバル企業は洛外に結構位置してたりする。伝統的なモノづくりの地場がありながら、観光産業よりも新しいテクノロジーに裏付けられたモノづくりに支えられる京都というJETROのレポートに出会った時はほんとうに目から鱗でした。

去年・今年はさいたま国際芸術祭2020の先行プロジェクトとして「CIRCULATION SAITAMA」、横浜の日本新聞博物館で開催した「地域の編集ーローカルメディアのコミュニケーションデザイン」展に際して開催した「YOKOHAMA MEME」などのワークショップで東京近郊の都市について考える時間が増えたので、江戸とその周縁の地域の関係性にもあてはめられる、都市と郊外の関係性についての視点を養えたのも京都のプロジェクトがきっかけでした。

関東と関西の都市性と土着性

とはいえ、関東における郊外性と、関西における郊外性は全然違くて、でもいろいろ比較すると面白い。横浜と神戸はよく比較されますし、東京と大阪は比較される。確かに東京は都市の内側に虫食いのように郊外が点在していて、それは大阪に近い。では京都は、と考えると、京都は完全に同心円状で、京都の内か外かできっぱり分かれている感じがする。

京都にいると四方を山に囲まれていて、神戸にいると北に山、南に海があるから方向感覚が安定するけど、東京にいると山が見えないから不安になる、と恵谷さんが言ってたのも印象的でした。茫漠とした関東平野の不安感。とはいえ東京は坂が多くてしんどい。渋谷は谷間にあるし、近年観光地化された谷根千エリアも坂が多くて自転車はきつい。大阪みたいにパーっと行ってその先を曲がって……みたいな「筋」で東京は歩けない。東京って関西から見ると結構不便なまちだな、と思う。それと、東京の問題は、都市の中にローカルがいっぱいあるのに、ほとんどの人がそれに注目しない点。

中野サンプラザが無くなるっていうニュースに憤りを感じた人は東京に住む人の何%でしょうか。東京って、ほとんどがよそ者で構成されたまちなんですよ。こういっちゃなんだけど、東京出てきて浮かれてる人が多いんですよ。だから東京は再開発が善とされる。これは梅田にも言えるかもしれない。都会であることが奨励される。渋谷のスクランブル交差点で繰り広げられたハロウィンの汚点も、言ってみれば、普段東京に住んでない人がハロウィンの時期だけやってきてイキって暴れるからああいうことになる。これ、例えば地元の広場でやったらボコられますよ。地元の偉い人たちに。だからやらない。「地元じゃないから」渋谷のラーメン屋の券売機に水流し込んで壊して笑ってたりする。迷惑をかける人が、地元の隣人じゃないからそういうことができる。

オーバーツーリズムの問題

だから、東京は内側に多彩なローカルを抱えながら、構造的によそ者に敗北し続けるまちなんです。まあこれは、2020年のオリンピック以降、確実にダサくなって衰退する東京にあってはむしろチャンスになるかもしれない。みんな東京に憧れなくなってくれれば、地価が下がり、空き家が増え、家賃が下がり、そこかしこでローカルの実験ができる面白い場所になると思う。まあそれは少し先の話として、じゃあ京都はどうなのか。

京都は今、オーバーツーリズムで国内の観光客からしたら、京都なんか行きたくないって思っている人が多いと思います。修学旅行も減ってるのかな。先生からしたら嫌だよね。バス乗れないし。

CIRCULATION KYOTOをきっかけとして作ったのが『恋墓まいり・きょうのはずれ』(千十一編集室)という本です。これは、京都を舞台に多数の作品を生み出してきた花房観音さんと、円居挽さんという二人の作家に、「京都の洛外を舞台に小説を書いて欲しい」と依頼して作られた、一風変わった小説集です。

オーバーツーリズムを生み出したのは鉄道会社と広告代理店と、それから雑誌やテレビといったマスメディア。本当はメディアに携わる人間は、社会を良い方に変えなければいけないと思う。儲けるために社会を悪い方向に向けるのって、メディアの仕事なんでしょうか。少しでも人の流れを拡張し、普段訪れない場所へ人を循環(CIRCULATION)させるのが編集の仕事と思って作ったのがこの本です。

京都の企業や人は誰に向けて広報したいのか?

京都って、すごく不思議なまちだなと思います。世界的な観光都市でありながら、ある種の土着的なしがらみも強い。ローカルメディアのことを考えるうえでも京都はとても重要で、そもそも各地域ごとにコミュニティが強いから、フリーペーパーを作ったり、表に出てこない集いがいっぱいあったりと、地域内で情報が循環する、小さな情報環境がたくさんあるまちだなと感じます。

京都に根ざす企業、上で取り上げたようなグローバル企業以外にも、老舗の企業から、比較的新しい企業まで様々にあると思うんですが、そういう企業に属す人たちはどのように対外的なコミュニケーション(パブリック・リレーション)を行っているか。割と人の顔を見ながら、当たり障りのないことを言う人が多い感じがします。裏で何を考えてるかわからないけれど。

土着性に縛られるのが嫌で突飛なことをして叩かれる(渋谷ハロウィン状態になる)のは避ける傾向にあると思います。東京のようにそもそも地元への配慮などいらずに(いやなら別の区に移住すればいい)やっていける気軽感は京都に根差したら持てない感覚だと思う。でも土着性と都市性、どちらにも足をかけながら、融通する感覚って本当はどの地域にいても必要なんじゃないでしょうか。

地元の重鎮の顔色伺っていてはイノベーションは起きないし、成功するなら無視してもいい局面はあるかもしれない。日本国外に向けて広報したいのか、関東方面に向けて広報したいのか、地元に向けて広報したいのか。いろいろな選択肢があって、それぞれがヒリヒリする選択肢なところが京都は面白いと思う。そんなことを京都から考えてみたい、と思って始めたのが、長くなりましたがこちらのワークショップです(受付終了となってますが、各回の個別参加は受け付けています。ぜひとも興味ある回にご応募ください)。

1月11日に開催された京都四〇四お披露目トークイベント(連続ワークショップ第一回)の様子

文化庁が移転してきて、京都は企業だけでなく文化行政が今後どのように京都のモノやコトを紹介していくかも重要なポイントだと思います。これもあいかわらずな「京都イメージ」を押し売りするだけならば、もう誰も見向きしないと思う。もういわゆる京都なものはお腹いっぱい。その点、資本主義にめためたにされたおかげで、最近だと赤羽とか京急沿線とか「次はどのまちを掘る?」競争に明け暮れてきた東京から見ると、同心円状なまち京都の掘りようはいくらでもあるように見える。

京都から日本の都市とローカルを考える。京都で働く企業の広報担当者や行政の担当者とじっくり議論したい。そんなつもりで「京都四〇四」を立ち上げつつ、連続ワークショップを立ち上げました。ぜひとも興味ある方は各回のみでも、遊びに来てください。

2 演習&ディスカッション:ローカリティに根ざした編集・冊子制作
1月25日(土)14:00-17:00
お申し込みは→https://peatix.com/event/1395708/
ゲスト:竹内厚さん 進行:影山裕樹
ローカルに目を凝らせば、都会では枯渇したコンテンツがあることに気付きます。地域ならではの文化資源や風土を生かした新しい価値基準のメディアをいかに作るか。長年、編集者として関西圏のメディアの最前線で活躍する竹内厚さんをゲストに、地域に根差したメディア編集のあり方や可能性について議論を深めます。

3 演習&ディスカッション:観光客向けサービスのクリエイティブワーク
2月1日(土)14:00-17:00
お申し込みは→https://peatix.com/event/1408077/
ゲスト:松倉早星さん 進行:光川貴浩
京都の事業者にとって最重要事項のひとつである「観光」。近年、特に活況を呈しているホテルをはじめとした宿泊業。「ANTEROOM KYOTO」「POTEL」「SETRE」など、話題のホテルのプランニングを担うNue.incの代表でプランナーの松倉早星さんをゲストに迎え、宿泊業におけるクリエイティブをいかに実現するか、そのアプローチ手法を伺います。

4 演習&ディスカッション:ECサイト運営とファンコミュニティの育て方
2月23日(日)14:00-17:00
お申し込みは→https://peatix.com/event/1408089/
ゲスト:株式会社モンゴロイド 進行:光川貴浩
「ECサイトでどう稼ぐのか?」は、ローカル・ビジネスの切実な命題です。自社のECサイトやモールの課題抽出や改善方法について、コンサルティングやデータ解析に強みをもつ、Webマーケティング会社・モンゴロイドを迎え、ECサイト運営の最新事情や今後の動向をヒアリングし、成長できるECサイトについて学びます。

5 【番外編】エクササイズ:アート脳で超土着をアップデートする机上の実践学習
3月7日(土) 14:00-17:00
お申し込みは→https://kyoto404-art.peatix.com/
ゲスト:田中英行さん 進行:増本泰斗
ビジネスの領域にアート思考を取り入れるための様々な研修、書籍、講座が流行の兆しを見せています。それぞれが抱えるローカルに根ざした事業、サービス、広報のイノベーションを生むためのヒントとして、地域社会と対峙する国内外のアーティストの視座を学び、ビジネスへの応用を実験的に試みるプログラムになります。アーティストであり近年アート思考のプログラムに注力している田中英行さんをゲストに迎え、京都四〇四メンバーの増本と二人体制で実施します。

6 演習&ディスカッション: ビジュアルデザインで深化する コミュニケーションの場
3月22日(日)14:00-17:00
お申し込みは→https://peatix.com/event/1408095/
ゲスト:岸本敬子さん 進行:吉田健人
近年、地域の課題をデザインの力で解決しようとする取り組みが定着し、その形も多様化しています。デザインは情報の受け手に視覚情報としてダイレクトに伝わり、事業そのものを定義する側面をもちます。この回では、大手企業広告の制作から「MAGASINN KYOTO(マガザンキョウト)」等のアートディレクションまで、幅広いデザインを手がけてきた岸本敬子さんをゲストに迎え、ビジュアルデザインにおけるコミュニーケションの可能性について議論します。

7 連続ワークショップまとめ&交流会
3月28日(土)14:00-17:00(交流会は17:30から京都市内)
各演習を経て、参加者が考えたローカル×PRのプランの発表、および京都四〇四メンバーによるローカル×PRの新しいあり方をめぐるトークイベントを開催します。イベント終了後は京都市内で交流会を開催します。
お申し込みは→https://peatix.com/event/1404833/view

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ライタープロフィール

影山裕樹(Yuki Kageyama)

編集者、合同会社千十一編集室代表。著書に『ローカルメディアのつくりかた』(学芸出版社)、編著に『あたらしい「路上」のつくり方』(DU BOOKS)などがある。全国各地の地域プロジェクトに編集者、ディレクターとして多数関わる。一般社団法人地域デザイン学会参与、路上観察グループ「新しい骨董」などの活動も。2017年、本づくりからプロジェクトづくりまで幅広く行う千十一編集室をスタート。

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